聖騎士の矜恃3
「私は、勇者機関の作る世界を良しとしない。そこに神への感謝や祈りがないからだ!
我々教会から独立し力はあるが、彼らに与する者に救済は訪れないだろう。
私は当主として、聖騎士として、皆を救済へと導く。
若輩者ではあるが、どうか見守り、時には力を貸して欲しい!」
演説を終えると群衆からは惜しみない喝采が贈られた。
控え室でチェスターは休憩していた。
懐からくしゃくしゃの紙切れを一枚取り出す。今日の演説の内容が書かれた紙だ。
受けはよかったが所詮暗記したものだ。
それをくずかごに投げ、チェスターはこれから訪れる当主としての生活に不安を募らせる。
「チェスターよ、立派だったぞ!いやゴドフロア10世と言った方がいいか」
貫禄のある風貌で部屋に入ってきたのは父だった。
「これからは今までよりずっと忙しくなる。だがお前ならできる!
それは9世だった私が保証しよう。」
チェスターの肩を力強く叩くと9世は付け加えるように言った。
「そうだ忘れていた。お前の当主としての最初の仕事だが…」
当主が入り口に目を配らせると部屋に2人の男女が入ってきた。
チェスターは疲れていたのか表情は変わらず、入室した2人を目で追った。
「近い将来首都フィンガルトで戦いが行われるとお抱えの預言者が言っておってな。
主催は勇者機関なのだが、なんでもそれに勝ち残ると大きな権力を手にできるそうだ。」
9世の目が真剣になる。
「それに備えてお前にとっておきの教育係を用意した。」
1人は凛々しい顔つきをした女性だった。眼鏡をかけ左目の目元には黒子がある。
もう1人は厳格な雰囲気の男だ。短髪で赤い目をした偉丈夫、そんな印象だった。
「お前も会ったことがあるだろう、召喚術師のハンナとパラディンのイングリスだ。」
2人が一礼すると9世はさらに続けた。
「魔王討伐で輝かしい成績を挙げたお前を更に強くしてやろうと思ってな。
しかもその戦い、3人1組で戦うそうだ。これ以上のサポートはないだろう。
ハンナは召喚、回復、補助魔法、聖属性と水属性を使いこなすトレミアの天才魔導師だ。イングリスは鬼族、魔族、竜族、巨人族といった大型の魔物の討伐で名をあげたパラディンだ。」
9世は今までの好々爺然とした態度を一変させチェスターに詰め寄った。
「勇者機関が主催する戦いに参加するのははらわたが煮えくりかえる。
だがなあ…教会を裏切った者共の権威を失墜させるにはこれしかないんだよ。わかるよな?」