竜人は羽ばたく5
「俺は…死んだのか…?」
目を醒ますとそこは森の中にある湖のほとりだった。
359号は辺りを見回し状況を整理する。
暖かい陽の光が木々を通して差し込む。
水の音と森の生き物たちの声だけがこだまする、久方ぶりの安息の空間だった。
だが359号は先日まで自分たちが奴隷として人間にこき使われていたこと、反乱を起こし脱出を画策したことを思い出した。
「他の奴らは⁉︎」
「お、生きてたか」
背後から聞き覚えのある声がした。
振り向くとそこには竜人が立っていた。
竜人は頭から血を流し、左半身にも傷を負っているようだった。
「作戦は成功…と言っていいかはわからんな。なにせ大半の仲間が死んだ。
お前も死んだと思ったよ。」
竜人はおぼつかない足取りで湖のほとりにある大樹に背をもたれかかった。
ずるずると腰を下ろし、一息ついて話し始めた。
「鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてるな。
無理もない、お前はあっという間にやられたんだからな…412号に」
状況が理解できず固まっていると竜人はおかまいなしに続けた。
「しばらく安静にしてろよ。ドラゴンの血を飲ませて復活させてやったんだ。その命無駄にするなよ。」
「何が起こった⁉︎412号に俺がやられた?仲間の大半が死んだ?
訳がわからねえ‼︎全部説明しろ!」
「そんな余裕ねえんだよ…俺も血を結構使っちまった…しばらくここで休むわ。
落ち着いたら全部話してやる…
ただ、俺たちがこれからどうするかだが…何も言わず聞いてくれ」
359号は自分が竜人に助けられたことを理解すると黙って竜人の話を聞いていた。
「まずはこの国から逃げ出すのが先決だ。
それと…1年後首都で戦いが行われるそうだ。3人一組で戦うサバイバル…それに勝ち残れば権力が得られるらしい…」
竜人は駆け足でそれだけ話すと深い眠りについた。
359号は状況を整理するのに精一杯だった。
すると森の方から1人の女性が現れた。
見覚えのある顔、同族処理のあのエルフだ。
「お前は…」
「随分大胆なことをしたのね…」
美しく長い金色の髪、尖った耳、透き通るような白い肌、金色の瞳、だがその目は焦点が定まっていない虚ろな目だった。
「この湖は癒しの力があるの。」
エルフは湖の水を両手ですくい、口に含んだ。
「彼のおかげね、私たちが生き残れたのは。絶対生き残らなきゃ。」
「教えてくれ‼︎一体何があったんだ⁉︎」
食い気味に359号が尋ねるとエルフは振り向いて言った。
「生き残ったのは私たちだけ…
そして…これから戦うの、力を蓄えて…!」