3日目
アンセムは驚愕した。
一瞬で自分の正体を見破られてしまったのだ。
ハルトマンですら彼の正体を見破るのに時間はかかっていた。やはり教会の戦士は只者ではない。
「な、何故わかるんだ…?俺がネクロマンサーだということが。」
「?貴様は何を言っているのだ?」
「え?」
「俺が言っているのは後ろのフードを被っている奴だ。」
はっとしてアンセムは背後の死者のホムンクルスを見る。
死者のホムンクルスは微動だにせず、じっとその場に佇んでいる。
この教会の戦士は自分ではなく、このホムンクルスのことを言っていたのだ。
「まさか勇者だけではなく死者にも狙われるとは…
だが機関も愚かだ…死者の介入を許すなど…」
「ひ、瀕死のお前がどれだけ凄んだところでお前が明らかに不利だ‼︎
それ以上近づいてみろ!こいつがお前を切り刻むぞ‼︎」
アンセムは死者のホムンクルスを操作し、漆黒の剣をちらつかせる。
教会の戦士は明らかに瀕死ではあるが、その闘志や覇気は万全の状態のそれだった。そしてそれがアンセムを不安にさせた。
「貴様はネクロマンサーと言ったな…」
「そ、それは…後ろのこいつがネクロマンサーだと言ったんだ!」
アンセムはしどろもどろになる。
「くそ、頭がうまく回らん…」
教会の戦士は足元がおぼつかない。剣を杖のようにしながら、じりじりとアンセムに近寄る。
「く、近寄るな…それ以上近寄るな‼︎こっちに来てみろ。
今のお前を倒して、勇者機関に引き渡す!機関に引き渡されれば、お前は終わりだ。」
「ハハハ、引き渡すだと…」
教会の戦士は不敵に笑う。満身創痍のはずなのに、アンセムは何故か自分が追い詰められている感覚に襲われた。
「何がおかしい‼︎」
「この状態でもわかる…貴様の惰弱で卑怯な心根がな‼︎」
「な、何だと…!」
「貴様如きでは、万全な状態でも俺に勝てんと言っているのだ‼︎
後ろの奴諸共、今ここで相手をしてやる!」
教会の戦士の気迫は凄まじいものだった。支えにしていた剣を地面から抜き、臨戦態勢に入る。
そこに瀕死という二文字はふさわしくない。
そしてアンセム自身、侮っていた相手の一種吹っ切れた行動に、完全に動揺してしまっていた。
「こ、後悔するぞ…大人しくしていれば…生きて帰れたものを…」
アンセムの操作で死者のホムンクルスが動き出す。漆黒の剣を構え、教会の戦士と対峙する。
「戦いの前に名乗っておこう。我が名はゴドフロア10世チェスター、誉れ高きトレミアの聖騎士にして聖剣クラウ・ソラスの担い手。
貴様も勇者であるならば名乗られい。」
アンセムは内心絶望していた。聖騎士は死者との相性が最悪な聖属性の使い手。今使っているあの剣が聖剣なのだろうか。
アンセムは死者のホムンクルスに喋らせる。
「我ニ名前ナドナイ。我ハタダ、命ヲ喰ラウ者。」
「そうか。名も持ち合わせておらんのだな。」
その一言を合図として、死者のホムンクルスが仕掛ける。と言っても行動は全てアンセムが操作しているのだが。
「ほう、なかなかの強者だな。」
ー強者だと?当たり前じゃないか。こいつは、このホムンクルスは、今は亡き剣聖達の魂にハルトマンが創り出したホムンクルスを融合させた戦いの化身!
教会の戦士と言えど、こいつには勝てまい‼︎ー
死者のホムンクルスは天才的な剣捌きでチェスターとの距離を縮める。暗闇の中で漆黒の剣は視認しづらく、万全でないことも相まって、チェスターは徐々に追い詰められる形となった。
「今だ‼︎首を獲れ‼︎」
思わずアンセムは叫んだ。剣士については詳しく知らないが、瀕死の状態で死者のホムンクルスと渡り合えるなど、やはり只者ではない。
自然と力が入るのも事実だった。
そして漆黒の剣は、その射程にチェスターの首を捉えた。