劣等感2
2人の勇者が剣戟を繰り広げていた。互いに間合いを取り、一撃一撃で敵を牽制している。
アーサー17世ヨハンとゴドフロア10世チェスター、互いに自分の一番の武器を使わずに代替の武器で戦っているのだ。
それでもやはり名のある勇者達である。
傍で戦いを見ているハンナには2人の戦いに入る余地がなかった。
それほど2人の戦いは鬼気迫るものだったからだ。
「良い剣筋だ。やはり勇者たる者、使う武器は関係ないのだな。」
「そのようですな、ゴドフロア殿。私もこれほど華麗な剣撃は見たことがない。
まして貴方はまだお若い。さぞ優れた師から武術を学んだのでは?」
チェスターの顔が歪む。
忘れもしないあの地獄のような日々。いや地獄そのものだった地下での出来事が不意に思い出された。
「何か気に障ることでも申しましたかな?」
「貴様…」
「これが仮に聖剣を使っていたならばより素晴らしい剣捌きを見れたかもしれませんな。」
「………」
「だんまりですか。都合が悪いことは喋らない声質で?それとも剣を交えながらでは辛いのですか?」
「べらべらとうるさい奴だ。」
チェスターの一際重い一見で両者は再び距離を置いた。2人はまた距離を詰め、剣を交えようとしていた。
「私が知らないとでも?」
「?何のことだ?」
「貴方と聖剣についてです、ゴドフロア殿。」
「貴様が何を知っているのだ?教会の人間でもない勇者風情が。」
「貴方ほどの年齢でその剣捌きは通常ありえない。優れた素質、血統、そして鍛錬を積んだとしてもその位置には到底上り詰めることはできないのです。」
「ここにきて若さへの嫉妬とは見苦しいですなアーサー殿。私ほどの年齢で貴方は私以下だと、そう言いたいのか?」
アーサーは妖刀の切っ先をチェスターに向けた。そして眼光鋭く言い放った。
「貴方の今の人格はゴドフロア10世チェスターのものではない。聖剣クラウ・ソラスなのでは?」
傍で見ていたハンナが少しばかり動揺している。
「血迷ったのかアーサー殿。言いたいことがよくわからん。」
「教会の話は我々勇者も聞き及んでいる。その中でもかなり特異なものがありましてな。」
「もったいぶらずに言え。戯言だが面白い、特別に聞いてやる。」
「教会の持つ聖剣は絶大な力を持つが、使用者の人格を蝕む。それも無意識に。そして適合していない者が使えば使った者は破滅する。
教会の中でもその聖剣に適合した一族、それがあなた方ゴドフロアだ。」
「………」
「ゴドフロアは代々、聖剣を自らに適合させてきた一族だ。だが聖剣との適合は人格を浸食されることを意味する。それに聖剣の適合者は次第に聖剣との適合ができなくなっていく。
故に、ゴドフロアが当主を次代に継承するのは、聖剣と適合できなくなった当主が、新たな適合者に聖剣を引き継ぐためだ。」
「ほう…」
「そして適合をより確実なものにするには人格を浸食しやすい形にする必要がある。貴方にもその経験がおありかどうかはわからないが…一番わかりやすいのは肉体への苦痛だ。苦痛を与え、自我を崩壊させる。
まあ拷問ですな。」