黒き勇者、降り立つ
暗い部屋がぼうっと明るくなる。セミラミスの光の矢が間断なく、四方から巨人へと叩き込まれたのだ。
口だけ空いたマスクを被った巨人は光に反応しているのか、矢が飛んでくる方向を向くが、反応は遅くたちまち矢の的となる。
「ううううぅぅぅぅ…痛い、痛いよおおおぉぉぉ!」
光の矢は巨人の体に当たると炸裂し、じわじわとダメージを与えていた。
3人は巨人に方向が悟られぬよう、四方から攻撃を、浴びせることで部屋の中を探索していた。ただ元々薄暗い上に死体や拷問器具で部屋は散らかっているらしく、捜索は難航している。
攻撃を浴びせているうちに3人は巨人を常に囲い込むような形で部屋の中に散らばり、それぞれ攻撃、部屋の捜索、巨人の位置確認や攻撃・捜索係のサポートに分担し、状況を維持していた。
攻撃はセミラミス、部屋の捜索はジェームズ、サポートはペンドルトンに分かれている。
光の矢の威力は小さい。更に元々巨人族は並外れた体力と頑丈さを備えているので、この攻撃は巨人を倒すためのものではない。そういった意味で言えばこれは攻撃というより牽制と言った方が正しいのかもしれない。
この巨人は臭いでモノを感知し、行動している。しかしあまり鼻は良くない。マスクでふさがっているからだ。よほど注意しない限り、正確な位置を突き止められることはないし、光の矢による牽制で注意力や集中力は削がれ、こちらの位置など考えられなくなるというのが狙いだ。
巨人は周りを飛ぶ虫でも払うかのような手つきで光の矢を弾こうとしている。
ー巨人の動きはうまく止められていますな。ジェームズ殿は何か見つかりましたか?ー
ー死体なら飽きるくらい目につくがね。生憎出口らしきものは見当たらない。ー
ーこの部屋はここで行き止まりってこと?
ーわからない。まだ何か見落としてるかもしれない。ー
ーもうかれこれ部屋を3周はしています。このままではいずれ捕まるでしょう。今のところウルフ殿がこの部屋に入ってくる気配はありません。ー
ー何とかしてここから出て、ウルフも助けなきゃ!魔術師何とかしてよ!ー
ー今考えています。セミラミス殿とジェームズ殿は引き続き攻撃と捜索を。ー
3周もして何も見つからないということはこの部屋はここで行き止まりなのかもしれない。薄暗く、巨人から逃げながら捜索するには神経を使う。これ以上の部屋の捜索はただ体力を使うだけである。
しかしこの部屋が巨人にあてがわれたものだとするならば、ペンドルトンが入ってきた扉では小さすぎる。
巨人とてこの部屋にずっといるわけではないだろう。
どこかに出入口があるはずとペンドルトンは踏んでいたがそれも見当たらない。
巨人は相変わらず虫を払うかのように光の矢と戦っている。腕が空を切るたびブン、と嫌な音が聞こえた。
ー腕を振り回す…そうか。ー
ーどうかしたか魔術師?ー
ーお二方、今から私の言う通り行動していただきたい。この部屋から出られるかもしれません!ー