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勇者たちの鎮魂歌  作者: 砂場遊美
第4章七日間戦争編
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血に飢えた獣5

夜で暗かったとはいえ、あの隠れ家の場所を忘れるはずがない。

森の中を疾走するのは、伝統ある白魔術師一族メディチ家のローブに身を包んだアンセムだった。

その傍らには漆黒のフードをかぶり、これまた漆黒の剣を携えた、死者のホムンクルスがいた。

まるでアンセムを主人とみなしているかのように後ろをぴったりとくっついている。


前回ハルトマンと訪れた時の待機場所も覚えている。

首都郊外の旧街道沿いにある小高い丘から見下ろせる場所にその隠れ家はあった。

表向きは一般的な住宅街だが、今では休戦期間の勇者達が隠れ家として使っている。それもあのアーサー17世の勢力がだ。勇者の中の勇者といえども他勢力を買収しなければ勝ちあがれない。騎士の誇りを捨てて、買収とは嘆かわしい!

そんなアーサーの勢力でほぼ固められたこの地域の勇者もほぼ殺害済みだ。だからアーサー側は気付いていないのだ。


アンセムは3年前の魔王討伐を思い出す。陥落したアリゼイユで生存者を捜し、散っていった仲間を。

安全な場所でふんぞりかえっている者よりも自分達の方がよっぽど勇者らしいことをしていただろう。

あの後、精神的な傷がなかなか癒えずに機関の中で匿われていたアンセムは無力感に苛まれていたのだ。

あのアーサーはわかっていない。前回の魔王討伐でも魔王を倒した、それだけでまるで救世主のように崇められているが、その陰には何千何万もの尊い犠牲があったということに。


既に日は傾きかけている。ハルトマンには何も言わずにホムンクルスも連れ出してきた。

ばれたらどんなことを言われるかわからないが、成果を上げれば彼も文句は言わないだろう。

なにせ今の自分はネクロマンサーだ。禁断にして最強のクラス。自分の背後にはあのハーデスがついているのだ。

確かに強くなった自分に少しだけ自信が持てた。アイリとグレンはまた置いてきた。自分の正体だけは知られたくない。


もう少しで完全に日が沈む。そうしたならば作戦決行だ。

この作戦でアーサー17世ヨハンをホムンクルスとして迎える。

名だたる勇者達で構成される死者の軍勢は見ものだろう。そうなればあのメディチにも一矢報いたことになる。


今まで闘争心とは無縁だったアンセムだが、今は違う。そう自分は生まれ変わったのだ。ふつふつと戦いへの愉しみが湧きあがる。そしてこの戦いを変化した自分の最初の表現の場としよう。

隠れ家を見降ろし、沈んでいく夕陽を見ながらアンセムは今まで浮かべたことのない笑みを浮かべた。




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