血に飢えた獣4
隠れ家にいたヨハンは驚愕していた。
潜入していたペンドルトンたちの動向が突然わからなくなったのだ。
横を見るとグリージャは半ば放心状態のようだった。
「どういうことだグリージャ。彼らはどうなった!?」
グリージャはしばらくぼうっとしていたが、ふと我に返ると笑い始めた。
「何がおかしい?」
ヨハンも思わず身構える。彼女の真意を測りかねているのだ。
「いやあ、だってここまで想定外だとは思ってなかったから。」
「想定外?」
脇にいた竜人も関心を示す。彼はグリージャとの血の契約で彼女と強制的に主従関係を結ばされたのだ。
今では彼女に指一本触れられない。
「狼男、教会側に寝返ったみたい。」
「何だと!?ウルフがか!?」
「狼男は救出対象だったはずだ。何があった?」
「さあ、そこまではわからない。」
「さっきまであいつは拷問を受けてた。なのになんで拷問をした側につくんだ?」
「だからあ、わからないって。」
「映像」
ヨハンが呟く。
「え?」
「さっきお前が見せた映像、あれは本当に狼男の映像だったのか?」
「あれが偽物で、ウルフは拷問なんか受けてないってことなのか!?」
そう言われるとばつが悪そうにグリージャは目をそらす。
「グリージャ答えろ。」
ヨハンが強めに詰め寄る。
「あの映像は本物よ。」
「じゃあ」
「ただしあの時点での映像じゃないの。」
「…どういうことだ?」
「あの水晶は過去の映像を映すことが出来るものなの。だからあの狼男の拷問はもう終わっている。」
「そんな…馬鹿な…」
竜人は信じられないようだ。呆気にとられている。
「だがそれがなぜ裏切る原因になる?」
「それは本当にわからないの!」
彼女が思わず声を荒げる。本当に想定外のことで戸惑っているらしい。
「お前は…ウルフの映像をだしに俺の仲間を、自分のとこの魔術師を巻き込んで教会の偵察に向かわせたのか?」
「…そうじゃない。これは想定外だって…言ってるでしょ。」
「感知できなくなったということは、向こうからは帰ってこれなくなったということか」
「ええそうよ。」
「くそ!!」
竜人は壁に当たる。壁にはヒビが入った。
「グリージャ」
ヨハンが呟いた。
グリージャは返事はせずに顔だけ向ける。
「私がその教会の空間に入ることはできるか?」