血に飢えた獣3
巨人はこの部屋の主のようだ。
薄暗い部屋の中、壁には拷問に使うだろう様々な器具が立てかけられていた。
巨人の傍らには巨大な壺があり、そこにはくすんだ色の衣服が山のように積まれている。だがよく見てみるとそれは衣服ではなかった。
「ブジュルルルル…」
巨人が喉か鼻が詰まったような気味の悪い呼吸をしながら、その壺へと手を伸ばす。
この部屋の異臭はどうやら壺から漂っているようだ。
薄暗い部屋にだんだん慣れてきた一行はその衣服のようなものが何か理解し、戦慄した。
「ひっ…」
セミラミスが恐怖のあまり声を漏らす。
それは衣服ではなく、人間の皮だった。巨人のすぐそばには壁があり、その壁に先ほど見た皮のない人間が何人も磔にされていた。既にほとんどが事切れていたが、その中の1人はまだかろうじて息があった。
その人間は一行に気づくと、見たことがないくらい目を見開き、声にならない声をあげ助けを求め始めた。
だが舌は抜かれているのか、その悲痛な叫びは一行にとっても衝撃的だった。
「おまえ…うるざい…」
部屋が揺れた。巨人の手の一振りでまるで虫が潰れたかのようにその人間は死んでしまった。振り下ろされた巨人の手の下でおかしな方向に曲がり、血にまみれた腕がぴくぴくと震えていた。
「ブジュルルルル…あれ…死んじゃっだ…また怒られる…イングリズ様に…」
巨人は顔に黒いマスクを被っていたが、そのマスクはまた趣味が悪かった。顔の中で口の部分だけに穴が空いており、それ以外は完全に塞がれていた。鼻息がやけに聞き取りづらいのはあのマスクのせいだろうか。
何にせよ目が見えていないのは一行にとって救いだった。
「ぐんぐん…いい匂いがずるうぅぅ…女…女…女だあああ!女がいるのがぁ…ブジュルルルル…柔らかい肉…肉‼」
巨人は興奮しており、しきりに部屋の中を探している。セミラミスはあまりに不快なその様子と、恐怖で顔が引きつっている。
一行は巨人に近づきすぎないように距離を取っていたが、巨人が部屋をせわしなく動き回っているため、捕まるのも時間の問題だった。
一行はテレパシーで会話を始めた。
ーどうやらこの部屋はここで行き止まりのようですぞ。あれをどうにかしなければ。イングリスとは確か教会のパラディンでしたな。ー
ーあの男本当に趣味が悪いのね。ー
ーあの巨人を使って拷問を楽しんでいたのか。我々は音を立てずに部屋を動き続けるか?ー
ー得策とは言えませんな。いずれ疲弊して我々が動けなくなります。ー
ーじゃあどうするの!?あれを倒すにしても相手は巨人族よ。並大抵の攻撃じゃ死なないわ。ー
ーあまり考えている時間もないようですぞ。ー
巨人が匂いを元に一行のだいたいの位置を突きとめているようだ。
ひどく汚れた肌は灰色にくすみ、臭いもひどい。
「見づけだあぁ。女のすべすべした肌、いだだきまあああず」
巨人は興奮した様子で突進してくる。
一行は巨人と対峙する覚悟を決めた。