2日目4
突然扉が内側から勢いよく開けられた。
木材が折れるような音から察するに、やはり鍵がかけられていたのは間違いない。
だがそんなことよりも3人を驚かせたのは、扉から出てきたモノだった。
扉に近づいていたペンドルトンとジェームズは飛びのいた。
そして扉から現れたモノを見て、この空間が何のためにあるのか、理解し始めたようだ。
扉から出てきたのは人間だった。
だがただの人間ではない。全身が赤く、筋張ったようで衣服は身につけていなかった。
そして叫びともうめき声ともつかぬ声をあげながら、廊下の壁にぶつかり、のたうちまわっている。
「こ、これは…」
そして3人ともそれが何なのかわかり始めた。同時に理解したことを後悔した。
「ひっ、ひいいい…!あ、ああああ…」
取り乱したジェームズはその場にうずくまった。頭を押さえ、もう見たくないという風に、ただ震えている。
「セミラミス殿!この者を回復して下され!」
セミラミスも口を押さえ震えていた。ジェームズ程ではないにせよ彼女もかなり動揺している。無理もない。
のたうちまわるモノは全身の皮がなかったのだ。いや、恐らく剥がれたのだろう。
それだけにとどまらず、うめき声しかあげられないところから、舌かあるいは歯が抜かれているとも思われた。
声にならない声をあげ、皮のない男はペンドルトン達の前でただのたうちまわっている。
「くっ、仕方ありません…!」
2人は動揺していてどうしようもなかったので、専門外ではあるがペンドルトンが応急処置だけでもしようとした。
だが時すでに遅く、処置を施そうとしたその時にはそれはもう息絶えてしまっていた。
気まずい沈黙が流れる。
ペンドルトンはゆっくり振り返り、2人に話しかける。
「お二方に、いくつか話しておきたいことがあります。これから話す事にもし異議がおありなら、いますぐこの作戦から辞退して下され。」
取り乱していたジェームズもやや落ち着きを取り戻したようだ。
ただペンドルトンを少し怯えたように見つめている。
セミラミスも同じだ。
「私達はこの空間をあまりにも軽視していました。
ウルフ殿さえ救出できればいい、と。私の推測ですが、ここは教会の戦士が緊急退避用のために作った空間なのですが、もう一つ用途があったのでしょう。」
空気が張り詰める。次の一言を聞きたいような、聞きたくないような複雑な感情で2人はペンドルトンの話に耳を傾けている。
「それは捕虜の拷問でしょう。この者は…見ての通りの状態です。それに先程見た映像からも推測できます。
この時空間でもし敵に捕まったなら、死ぬことがどんなに夢のようなことか、身をもって知ることになります。この者のように。」
ジェームズは必死で震えを抑えている。だが体の震えは止まらず、歯がカチカチと音を立てていた。
「正直今の我々ではウルフ殿の救出はおろか、自分達の身を守ることで精一杯になることが予想されます。
敵陣に乗り込み、尚且つそれが敵に知られているならなおさらでしょう。
一旦退いて、グリージャ殿と交渉します。竜人殿かあるいはヨハン殿だけでも同行するよう仕向けなければ。」
誰も一言も発さない。決めかねているのだろう。退避はすなわちウルフにあの拷問を受け続けてもらうということなのだ。
「私の判断に異議がおありならこの作戦自体に向いておりません。一旦退避した上でメンバーから外れてもらいます。
お二方の実力を加味しても、あまりに平常心を保てない現状では無理な話です。」
一瞬の沈黙の後、口を開いたのはセミラミスだった。
「最初から…こういう算段だったの…?」
「……はい?」
「ウルフを見殺しにできない弱みに付け込んでここまで連れてきて、私達も教会の戦士に売り飛ばす。その上で竜人を仲間に無理矢理引き込む…!
やっぱり…あなた達は最初から私達亜人種を陥れるつもりだったのね…!」