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勇者たちの鎮魂歌  作者: 砂場遊美
第4章七日間戦争編
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2日目3

「来客か、歓迎してやらねばな。」


かつて教会が保有していた神殿を模して造られた時空間ヴァルハラ。

教会の戦士の筆頭であるゴドフロア10世チェスターは敵の気配を感知し、戦いの予兆を感じていた。

彼は歴代の当主のために造られた華美な造りの浴場で入浴している最中だった。


天井の高さはゆうに5メートルはあるだろう。女神を模した石膏の像、その女神が抱える甕からから湯が湧き出て、大浴槽へと流れ込む。湯は乳白色で、鮮やかな花びらが浮かび、むせ返るような香りが空間に広がっていた。


その湯につかり、つかの間の休息を満喫していたチェスターだったが、敵の気配を感じゆっくりとその場を後にする。

彫刻のように鍛え上げられた肉体。色は白いが、不健康な青白さではない。湯に浸かっていたためほのかに火照っている。

傷一つないその体はまさしく精霊に愛され、聖剣にふさわしい者の体つきであった。


ただ一つ、右上腕部には接合したかのような跡が痛々しく残る。それはコロッセオで竜人によって切断された部分の再生痕である。

如何に再生能力があっても腕を生やすとなると、流石に痕が残るようだ。

ぎり、と強く右腕を掴む。

それはチェスターにとっての敗北の証であった。

亜人種の圧倒的なパワー。その前には教会の戦士といえど抗う術はない。

必ず引導を渡す。強く神に誓い、彼は祈りを、鍛錬を欠かさない。


そして今その引導を渡す機会が到来したかもしれないのだ。

捕らえた狼男を助けに、竜人がやってきたかもしれない。

腕をより強く掴む。掴んだ左手は小刻みに震える。恐怖からではない。愉しみに打ち震えているのだ。


入浴を終え、サロンへと戻る。

右手を前にかざすと、呼応したかのように聖剣クラウ・ソラスが手に収まる。


「当主よ、報告がごさいます。」


チェスターの前に跪くのは教会の魔術師ハンナだ。


「わかっている。来客だろう?」


大方の内容はチェスター自身予想がついていた。


「左様でございます。3人、この空間へ入り込んでいる模様です。」


ハンナの横を通り過ぎ、手近なソファへ腰掛ける。入浴を終えたばかりで体は火照っている。テーブルの上のワインを一口含み、熱を冷ます。

ハンナは跪いたままだったが、跪く方向をチェスターへと変えた。


「3人か、狼男を助けに来たのだろう。それ以外にここまで入り込もうとする者はおるまい。」


「1人、増えております。」


「確かにな。パーティーを補充したのだろう。竜人め、余程義に厚いと見える。」


「大変申し上げにくいのですが…」


「何だ?」


「感知した限りでは、竜人はおりません。」


「何だと!?」


チェスターが声を荒げる。呼応するかのように聖剣も輝く。

ハンナはその威圧感に怯え、更に小さくなった。


「奴ら、竜人なしでこの空間を見つけ、狼男まで救出しようとするか…舐められたものだな。」


ハンナは答えない。


「どうやってここまで入り込んだか、何故竜人がいないか気がかりだが…奴がいないのならば俺が出るまでもない。対処はお前達に任せる。

それに…この空間では聖剣の使用も限られる。」


「はっ!」


「しかし奴らも“一足遅かった”な。あいつの方はもう終わっているのだろう?」


「はい。

先程連絡があり、確かにそのように。」


「竜人がいないのが悔やまれるな。

この“再会”はさぞ見物になったろうに。」


左手でグラスを揺らしながらチェスターが微笑む。

跪いたままだったが、ハンナもまた歪な笑みを浮かべていた。

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