竜人は羽ばたく2
「お前もよくやるよなあ、これで何人殺したんだ?
まあ、俺は殺してはいないからな、殺したのはお前なんだからな!」
同族処理の奴隷は引きつった愛想笑いを浮かべると、今にも倒れそうな足取りで監督役の元へ戻る。
「聞けえ奴隷共‼︎こうなりたくなかったら、この区画は絶対に終わらせろよ!」
奴隷たちの一日はこうして過ぎて行く。
その夜、奴隷たちの部屋ー部屋と言っても、洞窟を半ば無理やり休憩用のスペースに整備した場所ーでエルフの少年である奴隷412号たちは人間への反乱を画策していた。
エルフ特有の尖った耳をぴこぴこと動かしながら412号は部屋に集まったワーウルフの奴隷359号とオークの奴隷81号と話し合っていた。
「反乱と言ってもわかりやくやるのはダメだ。俺たちは日頃の労働で疲れ切っているし、あいつらは同族殺しの奴隷を従えている。」
エルフが小声で話す。薄暗い洞窟の中でロウソクの灯りが3人の姿を照らしていた。
「単純な力で言えば俺たちの方が有利だ。数も圧倒的にこちらが多い。問題は412号の言うとおり、同族処理の存在と、近くで控えている奴らだろうな。」
359号が毛並みの手入れをしながら言う。筋骨隆々で頼りになる奴だ。
「フゴフゴ…控えがいる場所から、離れたところで作業をしたい、そう言ってしまえば、いいじゃないのか。直接そう言うわけではないけども」
オークの81号はこう見えて一番頭がいいかもしれない。特有の鼻息の荒さと、まだ人間の言葉に慣れていないから、あまりそう見られないが
「なるほど。それでいて脱出もしやすい場所となると…森の近くの16区だな。」
412号は指で洞窟の地面に簡単な図を描いた。それから3人はしばらく話をし、ある程度計画はまとまった。
計画の概要はこうだ。
まず、まだほとんど整備されていない森の近くを開発したいと提案。これが受け入れられるかが最大のポイントである。
これが突破できたなら“奴隷としての自覚が芽生えた”などと適当な口実を述べて、人員を森側に割いてせっせと働けばいい。
そして頃合いを見て監督役を退け脱出。
「いくつか問題があるな」
359号が毛に着いた汚れ払いながら言う。
「まず第一に総勢で500名はいるだろう奴隷全員に情報を伝える必要があること。
中には保身のために情報を人間側に売り込む奴もいると思う。
二つ目に森側の奴らが首尾よく脱出できたとして、他の区画のやつらはどうする?
置き去りにして逃げるのか?あいつらのことだ。人質として利用するだろうよ。」
他の2人は黙る。確かにこの計画は穴だらけなのだ。
そもそも疲弊しきっている500人が全員無傷で脱出など到底不可能な話なのだ。