2日目
セミラミスはグリージャが持っているクリスタルの光景に耐えられず泣き出した。
あまりにもむごたらしい拷問の様子が生々しく映し出されていたからだ。
ジェームズは自分が拷問を受けた時のことを思い出して座ったまま震えていた。
「ペンさん見立てが甘いよ。クレタはウルフとは無関係。ただ連れ去られたことだけ知ってたんだよ。」
「あなたは…知っていたのですか?」
「さあね。」
「ここはどこなんだ!教会の奴らは今どこにいるんだ⁉︎答えろ‼︎」
竜人が詰め寄る。居ても立っても居られないのだろう。仲間の悲惨な姿は見たくないのだ。
「しかし、あなたが何故これを…?」
「うるっさいなあ。しつこいよ、どうでもいいじゃん。」
「どうでもいいだと⁉︎てめえ‼︎」
竜人がグリージャを殴ろうとする。
「取引しようよ。」
その一言に竜人が動きを止める。
「この狼男は教会の戦士に監禁されてる。厳密に言うと、別空間にいるから馬鹿みたいに首都を探しても出てこないよ。」
「教会の戦士が使う時空魔法の類か。」
ヨハンの一言にグリージャは頷く。
「この空間は普通の人間には感知できないし、入ることなんかまず無理。だけど、私だけは入り方を知っている。狼男を助けることができる。
私の条件さえ飲んでくれればこの空間まで案内してあげる。ただし、そこで泣いてるエルフは必ず救出に参加すること。」
「見返りは…見返りはなんだ…?」
震えながらジェームズが尋ねる。その様子に先程までの落ち着きは微塵もない。
「私たちと協力関係を結ぶこと。救出に成功しようが、失敗しようがね。」
「選択肢はないようなもんだな。わかった、その条件飲んだ!時間はねえ、すぐにでも案内してくれ。」
「何であんたが仕切ってんの?」
「は?」
竜人が固まる。
「救出に向かうメンバーも私が決めるから。
ずばり、ペンさん、エルフ、それからそこの親指なし!」
「なっ!俺は行けないのかよ!」
「な、何故私が救出メンバーなのですか!?」
「竜人、あんたはもう取引の見返り。私とこれから契約を結んでもらう。違反したら死ぬ、血の契約をね。
ペンさんは…その代わりってことで。」
ヨハンは腕を組み黙っている。
納得がいかないまま、救出メンバーが決められ、竜人は否応なしに血の契約を結ぶこととなった。
だが彼らに選択肢はなく、時間もない。
「グリージャ殿、私がこの作戦に参加するメリットはありません。竜人殿が作戦の如何に関わらず我々の側につくならば、私までが無理にこの作戦に参加する必要などないのでは?」
「おい…魔術師…お前…」
グリージャは髪をいじりながら少しの間黙っていたが、口を開いた。
「マーリン如きがうるさいなあ。」
その一言にペンドルトンは動きを止めた。
「まあしょうがないか。だからマーリンは…」
「いいでしょう。この作戦に参加して差し上げましょう。ですがこれだけは覚えておいていただきたい。」
「何?」
「私はあなたの言う、たかがマーリンです。ですが、あなたの言う通りにする以上、もう一族の事を引き合いに出さないでいただきたい!」
ペンドルトンが初めて激しい感情を表に出した。その場の誰もが驚きを隠せずにいる。
「……わかった。さ、時間がない。準備をしてすぐに転送するから。」
「ジェームズ殿、セミラミス殿。残念だが私は狼男にそれほど関心はない。だが作戦に参加する以上最善を尽くすつもりです。
だから、あなた方も悲嘆にくれず最善を尽くしていただきたい。」
意気消沈していた2人が顔をあげる。その表情はまだ少しの不安を残していたものの、目には光が宿っていた。