決断4
「それに勇者殺しについても気になりますな。一晩だけで50人というのは、この休戦期間でやるにはあまりに目立ちすぎる。
それに…そこまで大がかりに事を起こしながら我々が知らなかったとは…」
「多分私達が買収したやつがほとんど殺されたんじゃないの?生き残ったやつも勇者殺しが怖くて逃亡した…。それに被害者はまた増えてるかもよ。私達が戦ってる最中に。」
考えたくない事実にペンドルトンは頭を抱える。
「そもそも何故アーサー17世殿を勇者殺しに仕立てる必要があった…?
確かに噂でアーサー17世殿はまるで別人だと聞いてはいたけど、まさか勇者殺しとは。」
「今考えると中央公園で見た勇者殺しは中身が生きているものじゃなかった。そのクレタって魔術師も。」
「そういえば君はえらくクレタを怖がっていたな。」
「生きているものではない…死者…?」
アーサーは断片的な情報を頭の中でつなぎ合わせているようだった。
「魔王討伐で死んだ幽霊が参加してるのですかねえ?」
竜人が茶化すように言う。先程から会話に入れず、ウルフの行方も気がかりなのだろう。
「そうか、聞いてくれ皆。」
アーサーの一言に皆が注目する。
「勇者殺し、死者…憶測ではあるが、俺はある仮説を立てたい。」
「わーヨハンさんまでペンさんみたいになった!」
「率直に言おう。この戦いにネクロマンサーが参加している。」
皆一瞬静まり返った。あまりに予想していなかったことで呆気にとられているのだ。
最初に口を開いたのはペンドルトンだった。
「ネクロマンサーですか?」
「ペンドルトンほど俺は今頭が回らないので、うまく説明できるかわからないが…
そのクレタという男はエルフの発言からして死者なのだろう。そしてクレタも背後にいるネクロマンサーの傀儡、だと思う。
そのネクロマンサーはクレタや勇者殺しといった協力者と共に名だたる勇者を倒し、その倒した者をネクロマンサーの力で復活させて手駒にしているんじゃないか。」
「クレタや勇者殺しはそのネクロマンサーの手駒だと、そういうことか?
そういえば、セミラミスもこの戦いに死者が参加していると言っていたな。」
「ありえない話ではありませんね。」
「確かにこの戦いは協力者が多い方が立ち回りは楽だ。ただ生身の人間を買収したところで絶対安全だという保証はない。
死者として復活させれば裏切りようのない安全牌が出来上がるって寸法か、全くすごいな。」
ペンドルトンの脳裏にハンクの姿がよぎる。
今となっては事実は確認しようがないが、彼も恐らく裏切った者なのだ。
「ネクロマンサーってそんなすごいのか?今まで見たことない。」
竜人が口を挟む。
それにペンドルトンが答える。
「私も見たことはありません。ただ文献で見た限りでは、死者の魂を弄ぶあまり人道的でないことや、冥界の神ハーデスと契約するために死んだ後の魂は永遠にハーデスの奴隷になるというデメリットがあります。
あ、それともう一つ。どうやらネクロマンサーになると傷が回復しなくなるようですな。死者の魂を弄ぶことは自然の精霊に嫌われるからだそうです。」
「ふーん、訳がわからんが、なる奴はよっぽどおかしいやつってことはわかった。」
「ペンドルトンさんもう一つあるわよ。」
負けじとセミラミスも言う。
「ネクロマンサーになってしまうと、もう一生他のクラスへの変更ができなくなってしまうの。」
「なあ本当にそれになるやつがいるのか?」
「ですからかなり奇特な者でしょうな。今回の勇者殺しを使った作戦などまさに普通ではあり得ない所業です。」
ひとまず状況整理が終わり、新たな脅威も発覚した。だが竜人はこの話題が終わるとわかると、即座に新たな話題を切り出した。
「ところで、俺たちはウルフを探さねえと。なんかいろいろありすぎてまだ頭の中こんがらがってるけど、それだけは確かだ。まずはそのクレタって奴をとっ捕まえないとな。」
「あ、竜人」
グリージャが不意に彼を呼び止める。竜人は少し鬱陶しそうに振り返る。
「そのウルフの居場所だけどね、クレタのところじゃないよ。
ウルフは今教会の戦士に捕まって拷問されてる。」