決断3
お互いの知らない事実が明らかになる度、双方から質問が出たため状況整理が終了したのは明け方になってからだった。
外は既に陽が昇り、2日目が始まろうとしていた。
「では私がこれまでの経緯をまとめましょう。
まず竜人殿のパーティはコロッセオで教会の戦士に敗れた後、竜人殿とはぐれてしまった。その際救出したジェームズ殿と一時的にパーティを組み、竜人殿の捜索に当たっていた。しかし今度は捜索中に、仲間であるウルフ殿と行方がわからなくなってしまう。」
皆は黙ってペンドルトンの言うことを聞いている。状況整理の最中、ウルフがいないことに動揺し、進行を中断していた竜人も今は落ち着いて彼の話を聞いていた。
「ジェームズ殿らはウルフ殿までもがいなくなり、一体誰がこんなことをしたのか気になり始めた。まあ推測ですが恐らくクレタが可能性として一番高いでしょう。
それは後にして…
あなた方は夜までウルフ殿を待ったが帰って来なかった。失踪したと確信したのはその時になって。
すると今度はあなた方の隠れ家の中にその勇者殺しなる人物が現れた。」
ペンドルトンは一息置いて続けた。
「あなた方はその勇者殺しから逃げ出し、首都の中央公園まで退避した。だが勇者殺しはあなた方をしつこく追い回し、遂にその場所で対峙した、と。
だがその場に颯爽と現れたもう1人の人物がいた。それがクレタと名乗る魔術師。クレタは勇者殺しを退避させる程の実力の持ち主で、聞けば彼もパーティを勇者殺しに殺されたとのこと。
更にクレタはウルフ殿や竜人殿が失踪していたことも知っており、竜人殿が勇者殺しに捕まっていること、その勇者殺しが3年前の魔王討伐以降行方をくらませていたアーサー17世だと語る。彼は勇者殺しの隠れ家を突き止め、仲間のためにも仇を取りたかったが、自分1人では心許なかった。そこであなた方と手を組み、共に勇者殺しを強襲する作戦を取ることにした。
クレタの作戦はまず魔法陣であなた方を先行させ、その後クレタも合流するというもの。
あなた方はその作戦に賛同し、今に至る、とこんなところですかね。」
「おー、ペンさんすごーい。」
グリージャが全く心のこもっていない賛辞を述べた。ペンドルトンはそれを無視し、いくつかの疑問を頭の中で整理した。
「クレタという名前の魔術師は確かこの戦いには参加していないはず。」
「偽名だったってこと?」
「その可能性が高いでしょう。すぐにわかるような偽名にしたのは、恐らくクレタの言う作戦であなた方は死ぬ手筈になっていたから、確認しようがないと踏んでいたこと。そしてあなた方がさしてこの戦いの情報に精通していないことを予め知っていたからでしょうな。」
「最初から…俺たちはクレタの思い通りに動いていたってことか。」
ペンドルトンは頷く。
「クレタの厄介なところは真実と嘘を織り交ぜて話したことですな。
現に我々は竜人殿を、まあこれは誰かさんの独断でなのですが拘束していた。
更にあなた方しか知らないようなウルフ殿が失踪していることを知っているということは、彼が関与していると考えるのが自然なのです。」
「狡猾な奴だ。魔法だけでなく言葉でまで人を幻惑させるとは…」
「まさに魔術師ね。」