決断2
「俺も見くびられたものだな。」
「何だと?」
「確かにいい魔法ではあるが…範囲が広い分、精度がおざなりだ。」
重力魔法の中でアーサーが動いていた。ゆっくりとだが徐々に魔法を弾いている。このままでは竜人が重力魔法を振り払う前に行動されてしまう。
「ねえジェームズ、変じゃない?」
「何がだ?」
この危機的状況でセミラミスが冷静でいることにジェームズは若干苛立った。
だがふと目の前の光景を見ると心の中に燻っていたあの疑問が再燃した。
あれは本当に勇者殺しなのかという疑問が。
「さっき広場で戦った時、あなたの魔法は勇者殺しに効いていたはず。でもアーサーがあの勇者殺しだと言うならあそこまで魔法の耐性は高くなかったはずよ。」
「そういえば、あの時は暗かったうえに奴はフードを被っていた。確かに黒い剣を持ってはいたが…どうもキナ臭いな。」
ジェームズは魔法の範囲内で動くアーサーに話しかけた。
「一つ聞きたいことがある!アーサー17世よ!」
その一言にヨハンは動きを止め、ジェームズを見据える。
「先程首都の中央公園で、得体の知れない魔術師を切ったのは覚えているか⁉︎
それと、その場にいた我々に見覚えはあるか?」
「得体の知れない魔術師?」
「覚えて…いないのか?」
ヨハンは彼が何を言っているのかわからない表情だ。魔法のせいではなく、発言の意図が飲み込めず固まっている。
「本当にあんたらときたら、揃いも揃って踊らされたんだよ。」
グリージャがジェームズを睨みながら言う。
ジェームズはいまいち状況がわからず混乱していた。そのわずかな隙に魔法の力が弱くなったのをグリージャは見逃さなかった。
即座に龍血晶を竜人に突き刺し、更にあの見慣れない札を出し、掲げた。
目の前を強烈な光が包み込む。
セミラミス達は今までのことが本当に現実に起きたことか懐疑的になっていた。
立て続けに起きた出来事についていけない。
ようやく光が収まり、視界が開けたころ、目の前は先程の荒野ではなく、敵の隠れ家の中だった。
「あなた達は…勇者殺しではないの?」
「だから違うって言ってんじゃん。まあヨハンさんは暴走したら殺しかねないけどね。」
「俺たちは…騙されていたのか?」
「おい、どうでもいいけど龍血晶を抜いてくれ…もう何が何だかわからねえよ。」
両者は戦いを中断し、状況を整理することとなった。
意識を失っていたペンドルトンも起こし、対話が始まる。