決断
セミラミスの前から突如使い魔が消えた。
何事かと敵の魔術師へ目を向けると、どうやら傍にいた使い魔も消えている。魔力が切れたのだろう。
彼女はそれを確認すると、素早くジェームズに回復魔法を施す。傷が深く、まさに致命傷だった。一刻を争う容態でありながら放置しすぎてしまったのだ。
敵陣のことも気がかりだがまずは味方の回復と態勢の立て直しだ。
「お願い、助かって…!」
一方敵陣ではヨハンと竜人の衝突が続いていた。
「俺はあの時、ダンテに全てを奪われた時からの記憶が曖昧なのだ。体の内側で怨嗟の声をあげる魔物の、魔族の血の本能のままに俺は命を喰らい続けた。ただそれだけだった気がするのだ。
だがどれだけ肉体が魔物に支配されようと、記憶すらなくなろうと、ダンテをこの手で倒す、その使命だけは片時も頭から離れん!」
この一撃は今までで一番重かった。竜人も堪えるので精一杯だ。
ふと周囲にもう一つ気配があるのを竜人は感知した。
それは龍血晶を手にしたグリージャだった。
もう一度あれを食らったならそこで終わりだ。それを思うとヨハンとの戦いに集中しづらくなる。
だがこの時竜人は致命的なミスを犯してしまっていた。それはペンドルトンまでもがこちらに加勢しているということを見逃したことだ。
一瞬、ほんの一瞬だがペンドルトンは残り少ない魔力で竜人の視界を暗闇にする魔法を使った。
そのわずかな一瞬は勝敗を決するのに十分な時間だった。
動きを止めた竜人にヨハンの一撃がノーガードで叩き込まれる。吹き飛んだ竜人にグリージャが追い打ちをかけ、龍血晶を突き刺そうとした。
「そこまでよ‼︎」
だが事はそううまく運ばなかった。ヨハン達の動きが全て止められた。まるで金縛りにあったかのように動けない。
ヨハン側だけでなく、竜人も魔法にかかっているらしく、動けずにいた。
グリージャは龍血晶を手に、竜人を眼前にして悔しさを抑えきれない面持ちだ。
「竜人すまない。だがこれでお前らも動けまい!」
いつの間にかジェームズが回復し、彼の魔法の範囲内におびき寄せられていたのだ。
彼の魔法で竜人を含むヨハン側の者は動きを封じられている。
しかし回復したとはいえ、ジェームズも万全ではない。気力で持ちこたえているのは明白だった。
「あーあ、ペンさん情けない。」
「仲間に対してそれはないんじゃない?」
それだけではなかった。魔力切れで意識を失ったペンドルトンはセミラミスに捕らえられていた。
ペンドルトンはうなだれたまま、微動だにしない。
「竜人…目が回復し次第、重力魔法を振り払ってこっちに来い。お前ならできるだろ。」
竜人はまだ視力が回復してないのか、声のする方へ頭を動かしながら何とか了承した。
「さあ、竜人は耐性が強いから重力魔法も振り払える。そうすれば人質を取られているのはあなたたちの方。」
「この勝負こちらの勝ちだ!」