異空間での戦い5
「マンユ…次は簡単に消えないでいただきたい。」
『どうやら敵に致命傷を与えたようですな。』
「それはあのエルフですか?」
『いえ、剣士です。』
「⁉︎馬鹿な?」
ペンドルトンは焦っていた。使い魔の召喚に魔力を使いすぎていることに。使い魔は所詮召喚者ではなく、魔力に従っているだけで、それがなくなると途端に掌を返したように裏切る。
魔力の消耗を激しくして使い魔をもう一度呼び出し、エルフに奇襲をかけたはずが失敗してしまったのだ。
案の定マンユは剣士に致命傷を与えたものの、エルフとの対峙を余儀なくされている。
「ジェームズ‼︎」
セミラミスをかばい、その身体に矢の一撃を受けたジェームズは地面に倒れた。
『貴様、余計な真似を…。』
セミラミスは使い魔の顔に向かい魔法の攻撃を放つ。使い魔は攻撃を避け、彼らと距離を置いた。
だがセミラミスがジェームズを回復しようとした隙を狙い、再び接近する。
「くっ、回復に集中できない…!」
『雑魚を庇いながらとは不憫だな。』
セミラミスは魔法による攻撃を使い魔に何発も放ったが、一向に当たる気配がない。
使い魔は華麗に攻撃を避けながら、彼らを威嚇している。
セミラミスはジェームズを回復しなければならないが、かと言って使い魔の攻撃を避けなければ集中もできない。
圧倒的に不利な状況になってしまった。さらに竜人もアーサーに押されるように敵陣へと入り込んでしまっていた。
「マンユにはあの調子でエルフを牽制していただきましょう。」
『時に主よ。』
「何です?アンラ。」
『先程と比べると魔力が少々弱っているのではないか?
もう少し強めの魔力を所望する。でなければ一旦我々を戻すことだな。お前の命が危ういぞ。』
ペンドルトンにとってまずいことになった。短期決戦で決めるつもりが、あろうことか泥仕合になっている。
このままではこちらの魔力が切れ、敵よりもこの使い魔に狙われてしまう。
「グリージャ殿、頼みがあります。魔女の生き血を下され!あのアイテムがあれば魔力を補充できます。さすれば、今の有利な状況を維持できるのです!」
だが彼女の返事はない。
ふと振り返り、彼は自陣の状況が飲み込めた。ヨハンが竜人と共にこちら側へ向かってきている。
ヨハンの剣から放たれる魔力と、竜人の炎の衝突は範囲が広く巻き込まれる危険があった。この場から移動しなくてはいけない。
だがグリージャは?
気がつくと彼女はペンドルトンから離れ、ヨハンへと加勢している。恐らく龍血晶を竜人に使い、再び捕らえようとしているのだろう。だが今の彼女は加勢するどころか、2人の攻撃に巻き込まれないようにするので精一杯だ。
だがそれはペンドルトンとて例外ではない。
ヨハンの魔力は抑えきれていない。その魔力を浴びればただでは済まないだろう。
じりじりとペンドルトンは移動を開始する。
意識はしていないが、彼はセミラミス達へと徐々に近づいて行っている。
ヨハン達の動向と、戦況のことで頭が一杯なのだ。
そしてこの時ペンドルトンは決断を迫られていた。魔力の補充は絶望的で、自陣には竜人がなだれ込んでいる。
魔力が切れるまで使い魔でエルフを牽制するか、それとも使い魔を消し、少ない魔力でヨハンに加勢し、竜人を捕縛するか。
時間の猶予はなかった。