異空間での戦い4
セミラミスがまずこの戦いで目をつけたのは相手の魔術師だ。
勇者殺しを従え、一晩で50人以上も殺害できてしまうパーティのブレインである魔術師は間違いなくパーティの要だった。
後方に控える女も正体がわからないが、矢による攻撃を弾いているあの結界はかなり強力なものに違いない。
そして使い魔の召喚。魔術師が補助に長けているのは明白だ。逆に言えば、あの魔術師を倒すことが相手側の戦意を大きく削ぐことになる。
セミラミスが狙うのはずばり魔術師の魔力切れ。
もともとの魔力量ならば人間はエルフに到底及ばない。使い魔の維持はかなりの魔力を消費する上、矢による攻撃を防ぐため、相手はさらに魔力を使う。熟練の魔術師と言えど長くは保たないはずだ。
「ジェームズ、あいつら趣味悪い。あなたの能力、使い魔を通してバレてる。」
それにエルフの耳の良さを相手は理解していない。内輪だけの話だろうと、この距離でもはっきりと聞き取れる。
「参ったね。下手に突撃してこなくなったか。」
「どうするの?矢でならこの距離でも攻撃が届くけど、魔法なら私でもこの距離は無理よ。」
「ははは、なあに心配いらない。竜人にちょっと動いてもらえばいい。」
一方竜人側ではアーサーの攻撃が激しさを増す一方だった。
ジェームズの作戦通り、アーサーを魔術師と女のいる場所までうまく誘導し、更にセミラミスとジェームズのいる側まで誘導。ジェームズの魔法の範囲内に徐々に移動させ、魔法で動きを鈍らせたところを一網打尽にする。
竜人は作戦のことを頭に入れていたが、それでも単身敵陣に切り込むこの役目はリスクが大きい。
それでも竜人はあまりに変貌したアーサーにかなり興味があるようだった。
敵の攻撃をいなしてつつ会話をし、誘導するのも自然な流れで行えている。
「ダンテ将軍…血統なき勇者と呼ばれていたあの男だ。奴は唯一持ち得なかった勇者の血を手に入れるため、今は亡き魔王と契約したのだ。」
「ダンテだと⁉︎あのカタブツがか?」
「奴はまさしく最強だった。それ故孤独だった。実力で言えば恐らく私をも凌いでいたやもしれん。
だがあの戦いで奴は魔王と接触した。そしてあの真実を知ってしまった。血統への執着と失望に魔王がつけ込んだのだ。」
「魔王はお前がとどめを刺しただろうが!自分の臣下の動向すら確認できなかったのか?」
「俺の持っている魔剣。あれは消滅した魔王の遺したものだ。奴は肉体が完全に消え、思念体となってもダンテをそそのかした。
ダンテは魔王討伐での失態を悔いて、国外で鍛錬を積むと言って出立したが、その際に魔王の思念体が接触したのだろう。」
会話に夢中になっている竜人だが第一の関門である敵の魔術師側との接触をまずこなせそうだった。
だが会話に熱が入りすぎ、そのまま敵陣へと入りすぎていることに気づいていないようだった。
「竜人、誘導のこと忘れてるんじゃない?敵陣に入りすぎてる…」
「あいつらしいな。さっきからテレパシーを送ってるんだがまるで反応がない。」
「早く気付かせないと!」
セミラミスは矢の攻撃で竜人に合図を送ろうとした。
矢はまっすぐ竜人とアーサーの間めがけて飛んでいく。
だが矢は2人には届かなかった。
矢を受け止め、セミラミス達の前に立ちはだかるのは先程ジェームズに消された使い魔だった。
「なっ、使い魔…!」
「そんな…もう再召喚したの⁉︎」
『先程は舐めた真似をしてくれたな。たしか顔だったか。』
使い魔は手で受け止めた矢をセミラミスに向かって投げた。
セミラミスが放つ以上のスピードで投げられた矢はそのままセミラミスに向かっていく。
「早い…間に合わない…!」