竜人は羽ばたく
昔々、空の上のもっと上にはいくつもの大陸がありました。
それは浮遊大陸と呼ばれるエルフたちが住む、いわば伝説の場所でした。
そこは人間たちが入って来れない聖域でもあったのです。
しかしその聖域に人間が入ってきました。
彼らはとても欲張りで、聖域を踏み荒らし、エルフたちを連れ去ったり、殺したりしました。
金銀財宝も奪われ、家族とも離れ離れになってしまいました。
彼らは何千年経った今でも、人間の下で苦しい思いを強いられているのです。
ーピサロ神話 第一章より抜粋
「グダグダしてんじゃねえ‼︎午前中にこの区画は絶対終わらせろよ、出来損ないども‼︎」
うだるような炎天下、新しい街の開発のため亜人種の奴隷たちが大勢働かされている。
ドワーフ、ホビット、コボルト、オーク、エルフ、そして混血の半人半魔。
彼らは太古の昔から、浮遊大陸があったと言われる頃から既に人間の支配下に置かれていた。
端的に言えば亜人種は人間に負けたのだ。
負けたものに待っている運命は一つ、奴隷として生きる道だった。
この炎天下の中、怒号を飛ばすのは奴隷の監督役である人間だ。
小太りで背は低い、目だけが欲望でギラギラしており、手には警棒と鞭を持っている。
失敗したものに制裁を加えるためだ。
人間は奴隷に魔法を使わせて自分の周りを涼しくしていた。
当然、魔法を使わされている奴隷は今にも魔力切れで倒れそうになっている。
「お、お願いします。せめて、水だけでも、飲ませてください。このままでは、仕事にも集中できない」
不慣れな人間の言葉で奴隷の一人が監督役に訴える。
だが奴隷の言うことを聞く耳など監督役は持ち合わせておらず、待ってましたと言わんばかりに弱った奴隷に罵声と暴力を浴びせる。
「なんだと貴様ぁ‼︎
水だけでもだと⁉︎図に乗るんじゃねえ、お前らは自分の尿でも飲んでやがれ‼︎」
監督役は鞭で奴隷に制裁を加える。奴隷は弱々しく抵抗するが、制裁を加えられる前から既にボロボロだった。
亜人種の生命力はなかなかのもので、毎日ボロ雑巾のようにこき使われても死ななかった。
そうすると監督役は決まって、
「おいお前、こいつに止めを刺せ。命令だ。」
自分に魔法をかけていた奴隷に同族の処理をさせるのだ。
奴隷は躊躇うことなく、倒れている奴隷に魔法をかけて殺した。
この長い奴隷生活から解放されるのならこれも一種の救いなのだろう。
同族処理の奴隷は既に数え切れない同胞を手にかけている。