異空間での戦い2
「あれは…なんなんだ…?」
後方で控えるジェームズの目に恐怖の色が見える。圧倒的な魔力が手に取った妖刀に宿っており、その魔力は増えるばかりだ。
とても自分ごときが渡り合える相手ではなかった。
最初からわかりきっていたことではあったが、改めてそれを痛感する。伊達に勇者を一晩で50人も手に掛けただけのことはある。
だが彼の眼前に別の敵が現れた。思考を切り替える。それは相手の魔術師が放った使い魔だった。
即座に剣を取り構える。
『恐怖の色が見える。いいぞ、怯えろ。その畏怖こそが我への供物なり。』
「ほざけ!使い魔!」
ジェームズは素早く突きを繰り出す。セミラミスの魔法で肉体は強化され、スピードも上がっている。
気配だけでかなり質の高い使い魔だとわかるが、所詮召喚獣の劣化版である。
使い魔と召喚獣の違いは術者との繋がりである。召喚獣は術者に絶対服従であり、魔力がなくなっても即座には消えず、術者の為に最善を尽くそうとする。
だが使い魔は、あくまで術者の魔力に従っているだけだ。
魔力がなくなれば、大抵の使い魔はすぐに裏切り、術者を殺して魔力を補填しようとする。そしてもう一つは弱点である。
使い魔は体の一部に術者との接点を持っている。それは印なり、痣なり、何らかの形を持って現れる。
この使い魔は顔がなく、代わりに魔法陣が顔に表れている。それが接点。
使い魔は接点に攻撃を受けると即座に消滅する。
ジェームズの高速の突きは対峙する使い魔の顔めがけ閃光のようにほとばしった。
「はああああああ!」
だが彼の突きは躱された。使い魔はギリギリまで攻撃を引きつけ、直前で剣のわずか数センチ横に流れるように攻撃を見切った。
カウンターとばかりにジェームズの脇腹に蹴りを加えようとする。
『………?貴様……!』
使い魔は動けなかった。体が鉛のように重い。重力に負け、地面に膝をつく。
「残念だったな。突きは本命じゃあない。」
『お…のれ…』
使い魔の顔面に今度こそジェームズの剣の突きが叩き込まれた。
使い魔はまるで砂のようにさらさらと消滅していった。
「使い魔一匹撃破、と。見立て通り、接点は顔の魔法陣だな。テレパシーで伝えなければ。」
一方ヨハン側では、ー
『マンユが消滅しました。』
「予定より早かったですな。敵の傾向は?」
『恐らく重力魔法の使い手でしょう。範囲内の敵の動きを操作するものと思われます。』
「重力魔法…親指がない…そうでしたか。コロッセオで教会の戦士に敗れた魔法剣士。亜人種のパーティだったとは…」
『魔法の範囲は半径およそ2メートル。恐らくエルフの魔法で肉体も強化されているようです。』
「実に厄介ですな。それと、今前方から放たれた矢は…?」
『敵のエルフのものと思われます。』
「全く…マンユを再度呼び出すまでしばらく時間を稼がなければ。」
ペンドルトンは前方から高速で放たれた矢を結界で弾いた。
ヨハンは妖刀を手に竜人と対峙している。竜人もヨハン一人で手一杯なのだろう。だがヨハンもいつまでもつかわからない。それまでにできるだけ有利な状況を作らなければならない。
ヨハンが竜人に敗れるのはイコールこちら側の敗北を意味しているのだ。