まがいもの5
「まーた訳のわからんことになったな。」
竜人が半ば呆れたように言う。
彼にとっては環境がほんの1日でめまぐるしく変わったのだ。無理もない。
「先ほどの黒魔術師といい、君らといい、挙げ句の果てが勇者殺しか。全く私は買収されて安全圏にいたはずなんだが。」
「ふふ…でもジェームズ、あなた少し嬉しそうじゃない。」
セミラミスがジェームズをからかう。
「はは、まあな。なぜだか嬉しいよ。買収されてその時点で私の戦いは終わったものと思っていたからね。」
「こんな見たことない場所にいるのに?」
「こんな見たこともない場所で、だ。正直言って私は君たちには到底及ばない。でも後悔しないように、全力で戦いたいんだよ。君らといると、なんだかそういう気持ちになれる。」
「………あいつらは相当ヤバいぜ。なりきりとはいえ、あのアーサーを名乗る奴らだ。特
にあの女……全く得体が知れねえ!」
「竜人、セミラミス。実力で及ばない私だが、策で敵を翻弄することはできる。」
ジェームズが提案するように2人に言う。
「あの勇者殺しは竜人に抑えてもらうとして…私はあの女を抑える。君の話だと勇者殺しよりあの女の方が危ないみたいじゃないか?」
「おいおい、このメンツで一番不安なお前が言うことか?」
「痛いところを突くね。まあ魔法の耐性ははっきり言って魔術師以外は大したことない。うまく私の魔法の範囲内におびき寄せて、動きを封じればいい。」
「そのサポートってことね。私はそれに加えて、あの魔術師を受け持つわ。」
「随分ざっくりした作戦だし、こっちは実質2人みたいだし、出たとこ勝負だな。
おい、ジェームズ。」
ジェームズは頷く。
「コロッセオでは助けたが、今回はお前まで構っている暇はない。俺も病み上がりだしな。」
「構わん、覚悟はできている。どちらにせよ、ここから出るにはあいつらを倒す以外ない。」
「よし!」
何故だか向こうのパーティのほうが動揺している。向こうも決して一枚岩ではないのかもしれない。
この時ジェームズは内心で、本当にあの者達が勇者殺しなのか、との疑問を抱いた。
だがこれから始まる戦いのことですぐにその疑念は掻き消えた。
「行くぜ‼︎一人一殺だ!」