まがいもの4
「!?何事だ?」
外で待機していたのは錬金術師のハルトマン。セミラミス達を扇動しアーサーの隠れ家へ突撃させることに成功した。自分は魔法陣でセミラミス達を移動させた少し後に合流すると伝えておき、隠れ家を監視できる位置で待機している。合流などするわけないのだが。
だが想定外のことが起きた。普段冷静なはずのハルトマンが動揺する。隣のアンセムにも動揺が伝わってしまったようだ。
「どうしたんです?」
「わからん。隠れ家の中にいた者たちの反応が消えた…だと…」
「そんな…」
ハルトマン達の作戦はこうだ。隠れ家でアーサーと竜人の戦闘が始まり、お互い疲弊しているところを死者のホムンクルスで強襲し、魂を奪うという算段。
だが事はうまく運ばなかった。自分の魔法陣ですら1人を移動するだけでもかなりの魔力を使う。エルフですら6人を一瞬で運ぶなど無理な芸当だ。
ハルトマンでは今何が起きているのか、その答えを瞬時に導き出すのは不可能だった。
「フ、ハハハハハハ!!」
ハルトマンが突然笑い出す。隣のアンセムは驚いて彼に問いかける。
「ど、どうしたんですか?」
「ハハハ、また一つ解明しなければならない謎ができてしまったな。面白い。私以上にこの戦いを知る者がいるようだ。いいだろう、今回はしばらく様子見といこうじゃないか。」
一方その頃、アーサーと竜人達は見たことのない空間にいた。
見渡す限りの荒野。空は曇り、薄暗い。ずいぶん雨が降っていないのだろう。地面はひび割れている。どこまでも荒んだ大地だ。
「な、なにが起こったの?」
「敵の術か?」
竜人たちが動揺している。無理もない。突然見たこともない場所にとばされたのだから。
それはアーサー達も同じはずだった。だが1人だけ様子が違う。
「ふふふ、いい場所でしょ?」
「グリージャ殿、一体何を…?」
「何って?気兼ねなく戦える場所が欲しかったんでしょ?ここが最適みたいだからここにしたの。」
「ここに…した…?」
「そう。初めに言っとくとね、ここは私たちがいた場所とは別の空間なの。」
「この際、お前の術については後だ。だがなグリージャ、我々が圧倒的に不利なのは明白だ。あの室内ならば敵を説得し、戦闘を止められたかもしれぬ。向こうにも損害が及ぶからだ。だが制約なく戦える空間では間違いなくこちらが不利なんだ。」
「また龍血晶を使えばいいでしょ。あとは…ヨハンさん、また暴走すれば?」
「そういう問題ではない!お前が龍血晶を使えたのは竜人が瀕死の状態だったからだ!もう猶予はない。ペンドルトン、戦闘準備だ!グリージャ、私とペンドルトンで竜人の動きを抑える。後はお前が龍血晶でまた動きを止めろ。それしか勝ち目はない。」
「随分と横暴だね、伝説の勇者様も。」
相手パーティーも動揺がやや収まったようだ。だが既に臨戦態勢。最早戦闘は避けられない。ペンドルトンはわかっていた。この戦いを始めればヨハンがまた暴走してしまうことも。自分ももしかしたら死んでしまうかもしれないということも。アーサーの、そしてマーリンの悲願を果たすこともできずに。
だがペンドルトンの闘志は消えてなどいなかった。魔道書を強く握りしめる。この試練を超えなければ悲願の達成はない。自分はそのために、この戦いに臨んでいるのだから。
今一度その覚悟で眼前の敵、竜人を捉える。迷いはなかった。
今回の戦いでジークフリートと並んで難敵とされる竜人。どちらにせよ彼を倒さなければ思い描いた未来は訪れない。
戦いは竜人達の突撃で幕を開けた。