まがいもの3
目の前に現れたのは亜人種のパーティーと思しき者たちだった。思しき、というのも竜人と同じ亜人種がいたからだ。
エルフ。人間よりも長命で高い魔力を持つ種族。長い耳とすらっとした体型で、鮮やかな金の髪をなびかせる。人里離れた森に住んでいたとされているが、数百年前にピサロ1世の亜人種弾圧でその数を大幅に減らした一族でもある。
人間とは一線を画す魔力量。その美しい姿と相まってその場にいたものは思わず息をのむ。
「竜人!」
「間に合ったか!」
グリージャは動けない。やはり魔法への耐性は低いようだ。クラスはアサシン、シーフ、グラップラーの3つをマスターしている。俊敏な動きで敵を翻弄するものの、魔法に対する弱さは否めない。
苦虫を噛み潰したような面持ちで目の前の者を睨む。相変わらず動きはできず、短刀を構えたまま動きを止めている。
エルフの横に立つのは戦士だ。見たところそこまでの実力者ではない。不思議なことに片方の親指がない。どこかで見た覚えがあるが思い出せない。見るにおそらくその戦士がかけた魔法でグリージャの動きを止めているようだ。
「セミラミス!それと…ん?」
「ははは、こんな形で再会するとは…因果だな。」
「ジェームズ!その水晶を引き抜いて今すぐ壊して!」
鬼のような形相で睨むグリージャの眼前で捉えた竜人が解放される。ヨハン、ペンドルトンはグリージャを抱え目の前の者たちに対して構えを取る。
龍血晶が完全に破壊され竜人が立ち上がった。
彼女が竜人を殺めるのを止めたものの、状況判断を誤ったかとヨハンもペンドルトンも考えた。まさかここまで早く、それもピンポイントで助けが来るとは思わなかったのだ。
形勢逆転。弱っていた竜人のオーラが徐々にその威圧感を取り戻していく。3対3。お互いの頭数は同じ。だが戦力差は圧倒的にヨハンたちが不利だった。
「ヨハン殿、これはまずいですな。」
「あーあ、あんたたちが止めなければこんなことにはならなかったのに。」
「見たところあの戦士は強くない。2対3だが…亜人種2人か。」
2つのパーティーが狭い室内で睨みあう。ここで戦えば間違いなくこの隠れ家は崩壊するだろう。それに休戦期間で派手な戦いを行えば、自分たちの居場所が知られる危険もある。それに…ペンドルトンはちらりとヨハンを見やる。
ペンドルトンの処方した薬も効果は一時的。戦えばまた暴走しないとも言い切れない。
それ以前に竜人と戦って生き残れるか。
「よくもなめた真似をしてくれたな。本当に死ぬかと思ったぜ。」
「大丈夫!?とにかく気を抜かないで!相手はあの勇者殺しよ!」
聞きなれぬ不穏な単語を聞き、ペンドルトンの頭にいくつか疑問が浮かぶ。
だがその前にとにかくここでの戦闘を止めなければならない。
前へ出ようとするペンドルトンだがヨハンが制し、前に出る。
「マーリン、すまない。お前にばかり責任を負わせない。」
「ヨハン殿…」
対峙するパーティーが臨戦態勢に入る。
明らかに魔力が跳ね上がる。竜人のものだろう。
「亜人種よ、私の仲間が手荒な真似をして申し訳ない!ここは一つ剣を収めてくれないか。」
竜人達は冷ややかな視線をヨハンたちに向ける。
確かに都合のいいことだ。こちらは相手を拘束し、殺そうとしたのだ。形成が逆転した途端、戦闘を中断。向こうが許すはずがない。
「休戦期間での戦いは危険すぎる!それにこんなところで戦えば双方無傷では済まない!それはあなたたちもおわかりではないのか!?」
「勇者殺しがいまさら何を言うか!!見損なったぞ、不義の元勇者!!」
勇者殺し。どうやら我々は勇者殺しという者になっているようだ。ペンドルトンは冷静に分析する。しかし戦闘は止められない。
だがその時グリージャが見たことのないアイテムを取りだした。
魔力の込められた札だ。見たことのない字で書かれているが、一体何だろうか。
「しょうがないな…また貸しが増えたねペンさん。強制召喚!!」
聞き慣れない呪文と共にその場にいた者たちが全員姿を消した。




