まがいもの2
「ヨハン殿!」
「ヨハン…この…ありえない数の魔物が中にいる、こいつがあのアーサー?」
「竜人…どうしてここにいる?」
「ヨハン殿、実はですね、」
「私が連れて来ちゃいました。ヨハンさん。」
グリージャがペンドルトンを遮る。今この場を支配しているのは間違いなく彼女だ。
「は、ははははは!」
竜人が笑い出す。拘束こそされているがまだ気力はあるようだ。目の光は消えていない。
「本当に…コロッセオで戦ってたかと思えば、こんなところで捕まってるしよ…
挙句あのアーサーの〝偽物〟までお目にかかれるとは、笑えるぜ。」
他の者は黙って聞いている。確かに今のヨハンからはかつての勇者としての姿は欠片も想像できない。
竜人が信じられないのも無理はない。
「まさかアーサーのなりきりパーティーなんかに捕まるとは俺も落ちたな。
しかし…この数の龍血晶を持ってるとは只者ではないな。」
「今は私が聞いてる立場なんだけど、あんた懲りないね。」
「けっ!懲りるかよ!」
「グリージャ、済まないが経緯を話してくれないか?状況がいまいちわからない。」
「ヨハン殿、私が説明致します。」
それからペンドルトンが昨日のコロッセオでの暴動から細かく経緯を話し始めた。
ただペンドルトンもアドルフ達と戦っていたこともあり、主観的なものにはなったのだが。
当然アーサーが暴走し、自分と戦ったことは伏せておいた。
経緯をヨハンに話したペンドルトンだが、竜人も話を聞いており、話に割って入って来た。
「休戦期間だと⁉︎」
「そっか、あんた半分意識なかったし知らなかったんだね。」
「お前が気絶させたようなもんだろ?よく言うぜ。」
「そうか…ということは1週間ほど猶予があると…名目上はそうなっているということか?」
「左様でございます。ですがグリージャ殿が何をお考えかわかりかねるが、竜人を連れ帰った次第なのです。」
ペンドルトンの首元に瞬時にナイフがあてられる。グリージャのものだ。
わずかな隙を逃さず彼に近寄り、彼を威圧する。
「こいつはこの戦いで一番危険かもしれない…だからこうして拘束してるんでしょ?本がなければ魔法も使えない二流は黙ってろよ。」
ペンドルトンとグリージャの間に緊張が走る。
「やめろグリージャ。」
割って入ったのはヨハンだった。彼も魔物に体を蝕まれているとはいえ、伝説の勇者。味方の争いにさすがに嫌気がさしたのだろう。そのオーラは半端なものではなかった。
グリージャは一瞬ヨハンの顔を見るとナイフを引っ込め、ばつが悪そうに引き下がる。
「ま、リーダー命令だししょうがないよね。ただペンさん、」
「何ですか?」
「私とあんたは対等じゃない。それだけは忘れないようにね。それと…この竜人はこれから殺して解体するから。」
「!」
再び部屋が緊迫する。竜人はなんとか拘束を解こうともがくが、龍血晶の前では無力に等しかった。
「くそ、やっぱりこうなるのかよ!!おい魔術師!アーサー!この女を止めろ!!」
竜人の精一杯の抵抗。今のやり取りでこのパーティーが一枚岩ではないと判断したのだろう。彼はペンドルトンとアーサーに懇願する。
「グリージャ殿…確かにこの者を連れてきたことは誤りだったかもしれません。ですが簡単に殺すなどと…浅はかにも程があります!」
「グリージャ、確かに竜人は危険だ。だがペンドルトンも言った通り、すぐに始末するのは危険すぎる。第一、竜人のパーティーも彼がいないことに気付いて捜索しているはずだ。闇雲にしていい行動ではない。」
ヨハンがたしなめるもグリージャは聞き耳を持たない。手には龍殺しの短刀が握られていた。
「グリージャやめろ!」
「くそ!こんなところで、こんなわけのわからないやつに殺されてたまるか!!俺は…自由を手に入れないといけないんだ!」
ペンドルトンが魔法を発動しかけたものの彼女の持っていた別のナイフを投げられ、本を叩き落されてしまった。
「くそ!間に合わない!」
グリージャが短刀を構えた。竜人の心臓めがけまっすぐに突き刺そうとする。
だがその短刀は刺さらなかった。グリージャの動きが止まったのだ。
竜人とグリージャの間、遮るように床に現れた魔法陣からエルフの女性と、見知らぬ戦士が現れた。




