まがいもの
引き抜かれた龍血晶を投げ、竜人はペンドルトンの魔道書を叩き落した。その勢いでさらにグリージャに飛びかかる。
グリージャは素早い動きで避けるも左右に広がっていた翼を避けきれず、翼の一撃を食らってしまった。
投げられた龍血晶をペンドルトンは突き刺そうとするも、回し蹴りを食らい壁に激突する。
ペンドルトンとグリージャの間で一悶着あった後、しばらく経ち時刻は夜。竜人は意識を取り戻し、今に至るわけだ。
「お前ら…一体…」
催眠術が解けたばかりとはいえ、竜人の身体能力は凄まじいものだった。
形勢逆転。囚われの身から一転して場の主導権を握ったのだ。
「女…俺を騙したな…」
「だ、騙してなんか、いません…」
竜人はグリージャの首を掴む。だが彼女の苦悶に歪む表情に罪悪感が生まれ、力を緩めた。
グリージャはその隙を逃さなかった。
懐から再び龍血晶を取り出し、首を掴んでいる竜人の腕に突き刺した。
「かっ、くそっ…」
竜人の腕の力は徐々に弱くなり、やがて立つこともできなくなった。
音を立てて竜人は倒れた。
ペンドルトンは素早く魔道書を拾い構える。
「女…お前…一体…」
その後のグリージャの手際は異常だった。
さらに数本の龍血晶を四肢に刺し、半ば磔のような状態で拘束した。
しかしそれよりも驚いたのは彼女の目つきの変わり様だった。今までの彼女の言動が多少猫をかぶっていたかのようだったのは明らかだったが、ここまで豹変するとなると恐怖すら抱きかねない。
そして変わったのは目つきだけではなかった。
「大人しくしろよ。」
「て、てめえ…」
彼女の容赦ない拳が鳩尾へと叩き込まれる。
苦悶に表情を歪め、竜人は胃の中身を戻した。
「汚いな…ペンさん掃除しといて。」
「グリージャ殿…」
「早く掃除してよ。」
ペンドルトンは使い魔を呼び出し、吐瀉物を掃除させた。だが彼が彼女の本性を知らないというのは半分嘘だ。
契約時、既にその兆候はあったのだから。
「本当あんたは便利だよね。ふふ、そういう小間使いお似合いだよ。」
「………」
「女…俺を捕まえてどうするつもりだ…?」
「どうするもこうするもないでしょ、ただ私の質問に答えてくれればいいの。
だって私達あのアーサーのパーティーだよ。」
「なっ、グリージャ殿!」
彼女の発言はあまりに軽率だった。
自分からパーティーの素性を明かすのは自殺行為。
弱点を明かすようなものだからだ。
「てめえらが…アーサーの…?」
「何か文句ある?」
「は…はははは…冗談だろ?お前らが?」
竜人は信じられない様子で笑い出した。
「アーサーはどうした?いねえじゃねえか。全く…3年前に連れが死んだのは知ってるが、お前らが代理なのか?なら本人はどこにいる?」
その時上の階から降りてきたのだろう、ヨハンが姿を現した。
症状は落ち着いているが、その風貌は相変わらずだ。
「なん…だよ…お前…」