暗躍4
その男、アンセムはにこりと笑いハルトマンに答える。
「ええ、本当にありがたく思っています。」
「お仲間は今どこに?」
「今は表の大通りにいますよ。食べ歩きをしたり、ウインドウショッピングをしたり、楽しんでます。休戦期間ですしね。」
「ククク、面白い。誰もその2人が死者だとは気づいてないだろうな。」
アンセムとは先日の戦いでハルトマンが目をつけたネクロマンサーである。
回復や補助魔法の名門、メディチ家の出身であり、跡継ぎ候補でもあった白魔術師だ。
しかし、魔王討伐に白魔術師として参加していた彼は目の前で仲間が死んだことがきっかけとなり、家と決別。更に今では禁忌とされるネクロマンサーへとクラスチェンジ、死んだ仲間を復活させこの戦いへと臨んでいるのである。
そして今彼はハルトマンという協力者を得て彼とある作戦を取っている最中なのだ。
このことは2人だけの極秘作戦であり、他人に知られでもしたらそれこそ一巻の終わり。
ゆえにハルトマンはアンセムを尋ねる際、偽名を使っていたのである。
「あんな最期を迎えたんです。これくらい自由にしても罰は当たらないでしょう。」
罰…ネクロマンサーは一度クラスチェンジしたならもう他のクラスへは戻れない。死後は契約主である冥界の神ハーデスの奴隷となり永遠に苦しみ続ける運命なのだ。
それでもこの男は仲間を蘇らせたい一心でこの道を選んだ。
愚かなことだ。
罰など死んでから始まるのだから。
「君は本当に仲間思いだ。お仲間も幸せだろうよ。」
精一杯の皮肉。だがこの男には通じないだろう。額面通りにしか受け取れない。
名家の跡継ぎとしてしっかり活動さえしていれば、順風満帆な人生が送れたというのに。
よりにもよってネクロマンサーへの道を選ぶとは。先の戦いでもわかったが、救いようのない大馬鹿者だ。
経験が浅く、先のことなど考えられない。辛い目にあうことを極力避け続けた結果、最も辛い道へ進んでいることにも気付かない。一度立ち止まって、冷静に考えることもしない。
メディチ家にとっては幸せなことだったかもしれない。こんな大馬鹿者が後を継いだならば、家はさらに凋落するのが目に見えている。
だがそんな大馬鹿者でも役に立つものだ。今は私が彼を利用する立場。それにネクロマンサーなど見つけたくても見つけられない貴重なものだ。お仲間も幸せという私の発言に顔をほころばせる彼は、見ていて痛々しくなる、年齢にそぐわない幼さを備えていた。
「ところで例の件は?」
「ああ、はい。ハルトマンさんも喜ぶと思いますよ。なにせ50人ですからね。選び放題ですよ。」
ちらり、とハルトマンは部屋の片隅、部屋で最も目立たなく、外からも死角になる箇所を見た。そこにいた、というよりあったのは黒いフードに身を包み、背には黒い剣を掲げた男の姿をしたものだった。
「やはり私の推測は正しかった。死者はホムンクルスにはできない。だが、君の力で蘇らせた者はホムンクルスにできる。
…死者のホムンクルス。これほどまでうまくいくとは。」