暗躍3
「………先程は申し訳ありませんでした、ハルトマン。言い過ぎました。」
「構わん。私も極力共にいるようにする。」
「はは…はは…我輩が見たかったのは、これだ…」
アドルフが弱々しく微笑む。
「そうとも、我輩達は幾度となく危機を乗り越え…戦場で武功を立てた…今回は、我輩達に与えられた試練なのだ。だから…うっ、げほっ」
「アドルフ様、喋らないでください!」
「ギーゼラ、君はアドルフ殿のそばにいてやってくれ。私のような男がそばにいては、容態も悪化する。」
「ハルトマン…」
「私はこれからホムンクルスの兵と共にアーサーの隠れ家の様子を見てくる。機を見つけ次第、隠れ家に攻め込む算段だ。」
「………わかったわ。私はどうやらあなたという人を誤解していたようですわ。あなたを信じます。お気をつけて。」
「ここにも念のためホムンクルスを配しておくよ。魔法陣に魔力を流せば召喚できるようになっている。頼んだぞギーゼラ。」
「ええ。」
ハルトマンは隠れ家から出た後、ある場所へと向かった。そこはアドルフの隠れ家から少し離れた所にある首都のホテルだった。
大通りに面した中々の好立地。
「客室315号室の宿泊客に会いに来た。」
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか。」
「クレタだ。」
「確認致します。少々お待ちください。」
フロントは客室に確認を取れたらしく、ハルトマンー今はクレタと名乗っているのだがー
を快く通した。
ロビーは天井が高く開放感がある作りで、自分達の隠れ家とは大違いだった。そこから赤い絨毯が敷かれた階段を登り、3階へと上がる。一般の宿泊客もいるが、当然この期間、戦いに参加する勇者もいる。
ただこんな目立つ場所に宿泊するのは田舎から出て来た者か、戦いに本気で参加する気のない買収された輩だろう。
315号室。階段から離れた隅の方の部屋。
ドアを軽く2回ノックする。
「私だ、クレタだ。」
そう言うとドアは軽快な音を立てて開いた。
「お待ちしてました。さあどうぞ中へ。」
「失礼するよ。」
ハルトマンは中に通され、大きなソファに腰掛けた。
「地下にいたせいかここの居心地が良すぎて困るよ。またあそこに戻りたくないものだ。」
「そんなに酷い場所なんですか。あ、紅茶とコーヒー、どちらにします?」
「紅茶で。濃いめで頼むよ。」
外の景色は素晴らしかった。晴れているというのもあるが、賑わう首都を眼下に、程良い喧騒を味わえるからだ。
「砂糖はどうなされます?」
「少なめで頼むよ。」
ソファはL字で配置されており、ちょうどハルトマンが座っている位置から外の景色が見て取れる、大きな窓。その枠の中には限りない青空。
「籠ってばかりいると、こういう景色が恋しくなる。私の援助で泊まれて光栄かね?アンセム君。」