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勇者たちの鎮魂歌  作者: 砂場遊美
第1章英雄編
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かつての肖像5

魔術師が呪文を詠唱し始めた。


「魂は巡る。穢れた空に、穢れた大地にー」


詠唱が始まると魔道書から聞こえる呻き声は最早断末魔とも呼べる絶叫へと変わっていた。

空気がビリビリと震える。冷や汗が止まらない。

口が渇く。自分の存在の小ささに怯える。

何か得体の知れないものに心臓を鷲掴みにされているような、そんな圧が部屋の中に充満していた。

アンセムにはもう魔術師の呪文は聞こえていなかった。


ふとアンセムは自分が無意識のうちに涙を流していたのに気づいた。

それはこれから死んだ仲間に会える期待からか、それともまだ見ぬ神ハーデスへの畏怖からだろうか、わからなかった。


「汝黒き衣を纏いて、まつろわぬ魂に裁きをー

我は汝に捧げよう、その御霊をー」


魔道書から禍々しい気配が噴き出る。


「その姿を見せたまえ、冥界の主ハーデスよ」





仲間のことを思い出す。

暖かくて、安心させてくれる、そんな女性だった。

戦乱で男たちが次々に死んでいき、彼女の国で戦える者は女性しかいなかった。

不慣れな鎧や装備品に身を包んだその姿を見て彼女にこれ以上戦いを続けさせてなるものかと思った。

自分の白魔法で彼女の手助けができるのなら命すら惜しくなかった。


辛い境遇でも笑顔を絶やさなかった彼女は強かったのだ。俺はそこに惹かれたのだ。

自分には名家という付加価値しかなかったから。存在意義を見出せず、あてもなく彷徨っていた俺にとって彼女は、アイリは希望の光だった。


寡黙だが男気のある武闘家グレン。

彼の腕っぷしの強さに憧れて過剰なトレーニングをして迷惑をかけたときもあった。

彼もまた故郷を救うため、魔族との長い戦いを強いられていた。

身体中傷だらけで、それが歴戦の証と言っていたけど背中にある大きな爪状の傷は癒えることなく残っていた。

魔族の呪いだったそうだ。


彼の傷を治してあげたかったし、これ以上歴戦の証を増やしたらグレンは死んでしまいそうだったから、俺は必死にサポートをした。




涙で視界がおぼつかない。

ぼやけた視界に、失ったはずの仲間がいたからだ。

あの時のままで、もう一度3人で、どれほど願っただろうか。


俺は今禁忌を犯している。白魔導士だった己を否定し、死後の安息すら望めない状態で。

だが…これから始まる戦いに勝てば、神も認めるはずだ。

世界の覇権を手にしたものに力添えができたと。

ハーデスの姿は見えなかったが今はそんなことどうでもよかった。








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