暗躍2
「…!もう呪いが左手一帯に広がっているのか。」
アドルフの左手を覆う禍々しい闇のオーラやにハルトマンは顔をしかめる。
「あなたは…こんな時にまで外をふらふらと歩いているのね。」
顔をアドルフに向けたままギーゼラが話す。ハルトマンとは話したくもないのだろう、呟いたと言った方がいいようなニュアンスだ。
「昨日のことは反省しているよ。」
ハルトマンはコロッセオでの戦いを観戦せずに外を単独で歩いていた。そのため騒動が起きた後簡単に合流できなったのだ。
もっともアドルフはアーサーと遭遇、ハルトマンもある人物と密会していたようなものだったが。
機関のゴーレム出現後、パーティーと合流した時にはアドルフはまだ一人で歩くことはできていたが、顔色はこの時から芳しくない。
「あなたの言うことなんか信用できませんわ。」
「ああ、わかっているとも。だからこうして外で情報収集していた。」
近くの椅子にハルトマンが腰掛ける。
「手がかりはあったのかしら?」
幽鬼のように冷たくギーゼラが言い放つ。
「呪いを解く方法に関しては、何も」
「役立たず。」
「何?」
首だけゆっくりとハルトマンに向け、ギーゼラは詰め寄る。目には光も闇もない。ただ彼を見ていた。
「役立たずだって言ってるの!あなたは、なんであなたが…アドルフ様のパーティーなの⁉︎
陰気で、いるかいないかもわからないくせに、傍観者ぶって、偉そうにふんぞりかえってる…あなたもいればこんなことにはならなかった‼︎」
ハルトマンは微動だにしない。
「どうして呪いを受けたのがあなたじゃないの?あなたが代わりに死んでよ…生きてるか死んでるかも曖昧なあなたが‼︎」
ギーゼラは肩で息を切らす。
目元は散々泣いたのだろう、赤く腫れている。
「やめるんだ2人共…」
仲間が争う姿を見たくないのかアドルフが止めに入る。
弱々しい姿とは対照に左手を覆うオーラは炎のように激しく荒れ狂っている。
「我輩も油断していた…リーダーである我輩のミスだ。お前達は悪くない。」
「……外で興味深い情報を聞いた。」
ハルトマンが呟く。
「まず一つ、昨晩だけで勇者が50人ほど何者かに殺されている。それも黒い剣を持った男に。」
2人は黙って聞いている。
「もう一つ、アーサーのパーティーにいたと思われる女を尾けたところ、隠れ家の場所がわかった。」
「本当なの⁉︎」
ギーゼラがこれまでにないほど食いつく。
「恐らくアーサーも昨日アドルフ殿と戦った後、動けなかったはずだ。私は聞いただけだが…どうにも様子が普通でなかったとか。」
「ええ、そうよ。アドルフ様の左手についているあのオーラを全身に纏って…それで攻撃をしてきたの。まるで悪魔みたいな風貌だったわ。それに黒い剣…まさか…」
「今のところ断定はできないが、アーサーはその黒い剣で他者を殺すことで力を蓄えているようだ。恐らく魔剣の類だろう。そしてパーティーの人間と共謀し、昨晩首都を徘徊し、勇者達を殺害した。」
「あの勇者が、そこまで落ちぶれていたなんて…」
「アーサーは暴走していたそうじゃないか。となると制御が難しいはず。今のうちに叩いてアーサーを倒せば呪いは解けるかもしれない。」