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勇者たちの鎮魂歌  作者: 砂場遊美
第4章七日間戦争編
168/209

暗躍

遡ること数時間前ー


首都には地下に格闘場を備えた賭場がいくつかある。2人の戦士のどちらかが勝つか競うシンプルなもの。

その格闘場の一つ、割合広めの空間を地下に構えた賭場を勇者ジークフリートのパーティーは隠れ家代わりにしていた。

どうやって賭場を隠れ家にしたかというと買収した、のではなく力ずくで奪い取ったからに他ならない。当然賭場の人間は勝負に負けて死んでしまったが。


地下は薄暗く埃っぽい。アドルフやハルトマンはともかく、唯一の女性であるギーゼラは難色を示していた。薄暗く広い空間を照らしているのはたった一つの天井からぶら下がった安い電球だけ。

キイキイ、キイキイ、音を立てて揺れる。閉塞的な空間と合間ってそれは神経に障る。

ギーゼラはアドルフの頼みでなければとうにここにはいない。


だが今ジークフリートことアドルフのパーティーは危機に瀕している。


「くそっ、忌々しい呪いだ…!アーサーめ、よもやあのような力を身につけていようとはな…」


「アドルフ様、安静になさって下さい。」


ギーゼラはタオルを絞り、アドルフの汗を拭く。アドルフは昨日から床に伏せてしまっていた。先日のアーサーとの戦いで受けた呪いの影響が時間と共にアドルフを蝕んでいるのだ。

日付が変わった頃には目に見えて体調が悪化し、汗も止まらなくなっている。

だがこれでも常人ならばとうに死んでいてもおかしくない。

あのアーサーが放つ禍々しいオーラを受けて尚も生きているのは、アドルフのその不死身の肉体あってこそだからだ。

だがその不死身の肉体ですらこの呪いは弾けず、それどころか耐え難い苦痛を与え続けている。


豪快でよく笑うアドルフが嘘のようだ。

苦しみに耐えてはいるものの、気力でもっているのは目に見えて明らかだ。目の下には隈ができ、目も若干虚ろ、左手にまとわりつくオーラは時間と共に手首、前腕、肘、とアドルフの身体を徐々に侵食しているようなのだ。


「アドルフ様、お水を…水分補給は大切ですから。」


「ははは、すまないなギーゼラよ。」


弱々しい態度が痛々しく思える。普段との落差がありすぎるのだ。今にも死んでしまいそうな脆さ。あの傍若無人のジークフリートの面影はもうない。


「………申し訳ありませんアドルフ様。」


吐き出すようにギーゼラが漏らす。

アドルフは視線を天井に向けながら黙ってギーゼラの話を聞いている。

薄暗い空間で、揺れる古い電球の小さい光がゆらゆらと彼らを照らす。


「あの時私があの魔術師を仕留めていれば…あの魔術師を出し抜いていれば…こんなことにはならなかったはずなのに…」


小さい嗚咽が聞こえる。

ギーゼラはシーツを掴み顔をうずめ、泣いていた。


「アドルフ様がいなくなったら、私は…私はどうすればいいのかわかりません。」


シーツ越しに伝わるアドルフの鼓動は弱い。呪いを解かなければもう永くない。不死身の肉体を持つ勇者が、誰の目にもつかずひっそりと朽ちていく。

ギーゼラの頭に考えたくないことばかりが浮かぶ。


その時、地上から誰かが降りてきた。

淀みない一定のリズムで聞こえる足音の主はギーゼラ達のいる所までやって来た。


「やあ戻ったよ。」


錬金術師ハルトマン。アドルフのパーティーの一員。だが先日の戦いでは2人と別行動を取っていた。それゆえアドルフが呪いに苦しんでいることを知ったのは少しばかり後のことだったのだ。

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