竜人を探す2
「誰だよ…それ?」
「………」
ジェームズは話さない。
「そこまで言っておいてなんで黙るんだ⁉︎」
「ジェームズ、いいわ。私も心の整理ができた。」
セミラミスが今度はジェームズに割って入る。
「いい?絶対に落ち着いて聞いて。」
「わ、わかったよ。」
あまりの気迫にウルフも少し後ずさる。
「その勇者殺しの男は、どうやら亜人種らしいの。私だって信じたくない。
だけど…嫌だ…まさか…竜人が…勇者達を殺してまわってるなんて…」
「う、嘘だろ…?だって昨日…あいつは…」
「……どうやら本当らしい。経緯はわからないが、昨日の夜だけでかなりの数を殺害しているようだ。目撃した者が見た特徴や、それだけの戦闘力からして…ほぼ確定だ。」
「でも…なんで俺たちのところに戻ってこないんだ?あいつがそんなことをしないのは…俺が一番よくわかってる!」
「教会の戦士に脅されているのかも…考えられる線はいくつかあるけど…今のところわからないわ。」
「だったらなおさら俺が行かねえと‼︎どんな理由にしろ、奴はただの人殺しだってことだろ?それに…そいつが本物の竜人かどうかも見極めないとわからないじゃねえか。」
ウルフがまくし立てるとまた気まずそうな表情で2人がお互いを見る。
流石にこの期に及んで隠し事はない方がいいのだろう。
ウルフは先ほどより遥かに焦っているし、苛立っている。
「そう…だね…」
「もういい。覚悟はできている。今更何を聞いても驚かないさ。」
「ああそうか。今までの全部嘘だよ。」
「は?」
呆気に取られる暇もなくウルフの意識は深い闇の底へと落ちていった。
意識を失う直前、目の前の2人がジェームズとセミラミスに変身していた教会の戦士達だとかろうじてわかったが、もう遅かった。
「全く手間取らせおって…しかし、俺の芝居はやはり神懸かっていたな?ハンナよ。」
「ふざけないで。亜人種に化けるなんて末代までの恥よ。主の命でなければ絶対にしないわよ。」
「お前など普段から化けているようなものを…おっとこれ以上は禁句かな?」
おちょくるイングリスを無視し、ウルフを早く連れて行けと、暗にハンナが目配せする。
やはり付き合いが長いのだろう。この辺りの手際は悪いとは言えない。
「しかしこの狼も…俺も実際に見てみたい!ってしつこすぎるのよ、それに獣臭いったらない!不潔!汚らわしい!」
ハンナが悪態をつく。心の底から亜人種を軽蔑しているようだ。
「担いでいるのは俺なんだがなあ…しかしこれで我々も主に責められずに済むな。」
「本当よ全く。でも竜人が現れるかしら?まだこいつらだって見つけてないんでしょ?」
「それも同時進行で考えないとな。我々も竜人を見つけないとどうなるか分かったもんではない。だがまずはこいつを連れ帰る。最低限の仕事はしたという姿勢を見せるのだ。」
「それもそうね。さ、早く帰りましょう。お仲間が戻ってきたら面倒だわ。」
「俺はエルフを捕らえて面白いこともしてみたいがな。」
この時2人は気づいていなかった。竜人が別の一派に捕らえられていることに。