一日目4
「この戦いに参加している以上竜人もパーティを組んでいます。つまり仲間が既に近辺を捜索している可能性が高いのです。ヨハン殿が不安定なのはおわかりでしょう?
この状況で闇雲に他のパーティを刺激するのは愚策なのです。」
髪の毛をいじりながらグリージャはつまらなさそうに話を聞いている。さながら教師に説教を受ける生徒だ。
「はーい。」
「それに今は丁度休戦期間。1週間もあればヨハン殿の様子も良くなるはずです。」
ピタッとグリージャが髪の毛をいじる仕草が止まった。大きく澄んだ瞳でわずかに怒りの色をにじませ、ペンドルトンを睨む。
「一言目にはヨハン殿、二言目にもヨハン殿。ヨハン、ヨハン、ヨハン…私だってこのパーティの一員なんですけど。」
しまった、とペンドルトンは思った。時間が止まったかのように、空気が凍りつく。彼女はまっすぐペンドルトンを見据えていた。
ペンドルトンはわざとらしく咳込んだ。
「そうですとも。あなたも我々のパーティの一員。確かにヨハン殿に執心しているのも事実。度重なる言動、お許しいただきたい。」
今この場でパーティが決裂する事態だけは避けなくてはいけない。自分があまりにもヨハンに意識を向けていたせいで、彼女をないがしろにしていたのだ。こういった小さな不信はやがて大きな破滅を生む。
彼女を落ち着かせなくてはいけない。
「ペンさんてさあ、あの戦いに参加してないんだよね?だってマーリンの一族は
次の瞬間グリージャの動きは完全に止められた。口を動かすことすらできない。強い金縛りにあったように全く身動きが取れないのだ。ペンドルトンの魔法であることは確かだった。
「……誰も聞いてないとはいえ、それに関しての言動は契約外のはずです。」
怒りを通り越し、呆れた顔つきで彼女はペンドルトンを見ていた。今の行いで彼女との間にあったわずかな信頼関係も崩れるだろう。
だがそれでも抑えきれなかった。それだけの思いが彼にはあったのだ。
「1週間後の戦いではあなたの満足のいく舞台を用意致します。ですので、どうか今は我慢いただきたい。もちろん契約時の事も覚えています。」
彼女の視線が若干和らぐ。だがペンドルトンはこの時ミスを犯していた。竜人を抑え込んでいる催眠術。もちろんアイテムでなのだが、その術者である彼女の動きを止めたことで
竜人の催眠術を解いてしまったのだ。
グリージャも気づいていない。
竜人が弱々しく、だが確実に意識を取り戻しつつあった。