一日目3
グリージャの傍らには拘束された男がいた。意識は混濁しており、朦朧としている。だがその風貌はおそらくこの戦いで知らないものはいないだろう。
浅黒い肌、背中から生えた翼。
「竜人ですよ、ペンさん。連れて来ちゃいました。」
上目遣いで舌をちろっと出してグリージャはおどけて見せる。
純粋故に恐ろしい。このグリージャはどのような方法で竜人を連れ帰ったのか。
単純な戦闘能力では今のヨハンですら、相討ちも厳しいほどの実力だからだ。
よく見ると、竜人の腕や背中から血のように鮮やかで紅い結晶が突き刺さっていた。
「確かに私はテレパシーであなたに一方通行の連絡ばかりしていました。それは謝罪致します。だがそれはあなたの安全を配慮してのこと。敵を捕虜として連れてこいとは申し上げておりません。」
「ペンさん何か勘違いしてない?私は彼を拘束なんかしてないです。今は…まあ起こしてもやっかいだし…こうしてるけど。
それに龍血晶で動きは止めてるし、催眠術を常にかけてるから…そんなに怒んないで下さいよー、可愛い顔が台無しですよ!」
またおどけて見せる。飾り気のない笑顔。だがそれが恐ろしい。子供のような純粋さはときに何よりも残酷なことがある。それと同じなのだろうか。
ペンドルトンは背筋に悪寒が走る気がした。
それに龍血晶はドラゴンの血を長い時間かけて精製しなければ生まれないレアアイテム。
盗賊をマスターしているとはいえ、並大抵の者は拝むことすらなく生涯を終えるだろうと言われている。
ドラゴンには強い耐性があり、ほとんどと攻撃や状態異常は通らない。だがドラゴンにも弱点がある。同じドラゴンか龍殺しの英雄である。この龍血晶は近づけるだけでドラゴンの動きを止め、かつ耐性すら下げる代物だ。
こんな代物を持つとは侮っていた、とも思えてくる。
自分が連れて来たメンバーにも関わらず、あまりにも彼女を知らなさすぎた。ヨハンに執心し過ぎていたのかもしれない。
「お髭くりくりしてますねー。あ、竜人さんはー、コロッセオで死にかけてたところを助けたんです。朦朧としてたけどその時は意識があってー、ちゃんとお話もして今から仲間の所に行くって話しました!」
えっへんと胸を張り誇らしげに言う。ペンドルトンはこめかみを押さえ、溜息をついたあとグリージャに話した。
「つまりあなたは…竜人を拘束ではなく、助け出し、尚且つ我々の場所まで連れてきたわけですね?」
「はい!そうであります!」
グリージャは敬礼のようなポーズできらきらした瞳でペンドルトンを見た。
澄んだ瞳。だがその瞳の奥はわからない。