かつての肖像4
死霊使い(ネクロマンサー)。
黒魔法の中でも異端な存在であり、今ではその数は片手で数えられるほどしかいない。
冥界の神ハーデスと契約し、ハーデスの管理下にある死者の魂を使役し戦う。
しかし、死者の魂を使って戦うということは倫理的にも問題視され、今では多くの者が忌み嫌っている。
さらにネクロマンサーには他の職業にはない特徴がある。
「まずネクロマンサーになった場合、自分の傷を癒すことができなくなる。死者の魂を扱う者は白魔法を司る精霊を裏切ってしまうからだ。
もう一つ…これが一番大事なんだが…」
魔術師が目を見開いた。その目は血走っていて興奮している様子だった。
「ネクロマンサーになった者は死んでも安息が訪れることはない。
冥界の神ハーデスの所有物である魂を弄ぶのだ…人間ごときがしていい事ではない。
死んだら最後…未来永劫、終わることのない苦痛をハーデスのもとで味わうことになる…ぶふっ…くく」
魔術師の下卑た笑いが部屋に響く。
「だが心配することはない。死ななければ良いのだ…
ネクロマンサーとしての適性が高ければ転生を繰り返し、半永久的に生きながらえることでハーデスによる苦痛から逃れられる…
しかしこんなリスクを負ってまでして、あの2人を生き返らせたいのか…」
やや冷静になった魔術師がアンセムに尋ねる。
「俺にとってあの2人は人生そのものだ。もう一度…また3人で笑える日が来るなら…俺は構わない。それに」
一呼吸置いてアンセムが続ける。
「近いうち、首都フィンガルトで勇者同士の戦いが行われるそうだ。それに勝てば絶大な権力を手にできる…!
当主を…あの間違ったメディチ家を見返してやれるし、またあの時のパーティで戦いができる…
ネクロマンサーの力で俺は栄光を掴む!
頼む‼︎力を貸して欲しい!」
アンセムの強い決意に押されたのか魔術師は観念した。
そして部屋の片隅にある一冊の魔道書を取り出した。
それはただの魔道書などではなかった。
冥界の神ハーデスと交信し、ネクロマンサーの力を授ける魔道書。
辞書ほどの厚さはあろうその本は、カバーが生き物の皮でできていた。
黒ずんだような、黄ばんだようなカバーのその魔道書からは絶えることなく、呻き声のようなものが聞こえる。
これかネクロマンサーとして生を終え、ハーデスに嬲られる者の末路なのだろうか。
アンセムは固唾を飲んでその本を見つめる。
いやすでにアンセムは魅入られていたのかもしれない。