一日目2
「ヨハン殿、お目覚めですか?」
気がつくとヨハンはベッドに横たわっていた。煌びやかな部屋の中。自分が眠る直前まで何処で何をしていたか、思い出せない。ただ思い出せるのは、この自分を気遣う男がペンドルトンという魔術師である事。そして、自分がある男に裏切られ、全てを奪われた事だけだった。
「………ペンドルトンか。すまない、また意識を失ってしまったようだ。」
ペンドルトンは髭を撫でながら丁寧に説明してくれた。
「今我々がいるのは、開戦前に宿泊していた宿ではなく、隠れ家の一つでございます。意識を失う直前、ゴーレムが現れたことは覚えておいでですか?」
怨嗟の声が頭に響く中、必死に記憶を手繰り寄せる。
「すまない…記憶が曖昧だ。」
「謝ることではございません。ヨハン殿の体調は万全とは程遠い。ゴーレムの放つ強力な光で気絶されたのです。
その後はこちらまでお運び致しました。あの豪華な宿には及びませんが…あの古びた隠れ家よりは幾分居心地がよろしいかと。」
ヨハンはまた頭を押さえた。記憶が混濁しているのだ。体内の魔物への拒絶反応は凄まじく、気を抜けば暴走しかねない状態だ。そんな中でヨハンは記憶が不明瞭になっている。
一刻も早くあの男を見つけなければならない。どれだけ記憶が曖昧になろうとあの日のことだけは脳裏に焼き付いている。
「ヨハン殿は昨日から今まで寝ておられたのです。現在午前11時。ほとんど一日寝ておられたようですな。」
「そうなのか。」
「これから一週間は休戦です。体調を整える
絶好の機会かと。」
その言葉にヨハンが反応する。
「休戦…そうか。」
ひどく覚束ない反応。ペンドルトンはそんなヨハンに対しても、冷静に応える。
「しばらく安静にして下さいまし。枕元にある薬は体内の拒絶反応を一時的に抑える効果があります。必ず服用するようお願い致します。」
「わかった。ありがとう、ペンドルトン。」
弱々しく答えるヨハンにペンドルトンは軽く頭を下げて部屋を後にした。
魔導書を握り締め、階下の部屋へと入る。
「グリージャ殿、ヨハン殿が目を覚ましました。」
グリージャ。ヨハンのパーティの3人目。格闘家の少女。天真爛漫でありながら確かな実力を持つ。だがその天真爛漫さの裏側に狂気めいた何かを匂わせる人物だ。先のコロッセオの騒動ではぐれてしまい、つい先ほど合流したばかりである。
「本当ですか⁉︎良かった…ここ最近ずっと様子がおかしかったから…まさかって思ってたんです。」
「………グリージャ殿。それは置いておきましょう。あなたには聞きたいことがあります。」
ペンドルトンはやや声を落とし、グリージャの左側に視線を移す。
「ああ、これのことですか?」
ひどく機械的、無機質な反応でグリージャが〝それ〟を指し示した。