凱旋、そして4
「めでたし、めでたし…で終わるはずがないだろう?ダンテ将軍。」
「……まだ消えていなかったのか、魔王。」
「ああ、そうみたいだ。といっても肉体はアーサーに斬られてもうない。本当にあと少しで私は完全に消滅する。それまでに少しだけ君と話がしたいだけなんだ。」
ログレスから遠く離れた異郷の地。母国を守るにふさわしい戦士になるためダンテは出立した。
しかし、それは建前だった。魔王討伐後、未だにダンテには魔王の影が取り憑いていた。
「話、話とは。よっぽど寂しいと見える。そんな情けない心だから肉体が腐敗するのだ。」
「痛いところをつくね。だけど今回は違うよ。」
「?」
「君に関することさ。ダンテ将軍。」
「私に関すること…?」
「一番最初に話したことを覚えているかい?君はただの将軍位にとどまるのかい、っていう下りさ。」
「ああ覚えているとも。その答えがこれだ。私は生涯をかけてログレスを守る。もう魔王は復活しない。お前が消えたら私は“龍の巣”で修行を積む。偽りとはいえ、平和のため尽力した先代を責めることはできない。
私は将軍位で構わん。ただ母国のため力を尽くす。」
「嘘だね。」
「なっ…」
「私が聞きたいのはそんなことじゃないんだよダンテ将軍。ぺらぺらと講釈を垂れる…そんな君は酷く滑稽だ。苦し紛れにしか聞こえないよ。必死に本能から逃げようとする苦し紛れにしかね。」
「…何が言いたい?」
「君は真実を知る数少ない人間だ。そして知っている。勇者システムが偽りのものだと。アーサーの一族が元凶だと。私の闇に魅入られたのは心の奥底でそれを認めているからだ。」
「私の心が弱かったからだ。」
「君が弱い⁉︎馬鹿なことを言うな!君は十分強い!いいか、卑屈になるんじゃない。君の卑屈は他者から見れば嫌味でしかない。決して理解されない!
うじうじと勇者になれない言い訳を見つけて、誤魔化している!私には血統がないから、血筋ではないからとな!呪文のように唱えて言い聞かせているんだろう?それを慰めにしているんだろう⁉︎」
「うるさい奴だ。」
「今君は分岐点にいる。」
「………」
「一つの道は今君が進もうとしている道だ。上っ面の修行を重ね、上辺だけの忠誠を尽くす。君の疑念はくすぶり続ける。形だけでも平和を作った偽物の勇者に頭を垂れる。真実を知りながら。それをひた隠しにし、しょうがないと、心の中で言い続ける道だ。」
「本当にうるさい奴だ。」
「もう一つの道は…いわば革命だ。」
「!」
「血筋こそ勇者に必要か?答えはノーだ。今の血統書付きの勇者共は先祖の偽りの偉業で威張り散らしている。
いいかダンテ将軍。英雄とは、勇者とは常に道を切り開く者だ。ただ与えられた運命に従うだけの者は勇者でもなんでもない。」
「革命…」
「もう私は消える。後は君次第だ。君ならこの世界を次の段階へと変えられる。機会は今しかない。」
「………」
「私の長話に付き合ってくれた礼だ。私の形見だと思って欲しい。使うかどうかも君に任せる。」
魔王の影は消えた。変わりにその場に残されたそれはダンテには初めて見る剣だった。
「これは…」
鞘も刀身も黒い剣。魔王が遺したその剣の名はー魔剣ダーインスレイブ。