凱旋、そして2
「申し訳ありませんでした。」
ダンテは玉座で王にひざまづいた。
アーサーは黙ってダンテの次の言葉を待っているようだった。
「コキュートス出立前、敵からの接触がありながらそれを報告せずにいたこと。そして最終局面において、敵の術にかかり戦力となれなかったこと、全ては私の責任。このダンテ、今ここで自害することも辞さぬ
「やめたまえダンテ将軍。」
一言でダンテは押し黙った。
「これ以上臣下に死んで欲しくない。そのような責任の取り方は…現実から逃げているだけだ。」
アーサーの声は少し震えていた。魔王から聞いた言葉がまだ頭の中でぐるぐると巡っているのだ。
アーサー王に対する疑念。勇者に対する疑念。偽りの平和への疑念。そんな感情が渦巻いていてもおかしくないにも関わらず、ダンテは王の招集に応じた。
魔王にそそのかされていたとはいえ、一時は敵の手に落ちたのだ。こうして自分への処断も考えた上でこの場にいるのだろう。
どこまでもダンテはアーサーの忠臣であり続けるのだ。
しかしアーサーはダンテから最も聞きたくないことを聞いてしまった。
ー奴はあの男は…この責任から逃れられる。そう安堵して死んだのだ。ー
死んで責任から逃げる。一種の現実逃避である。永遠に蘇る魔王。それに対抗するには寿命のある人間は世代を超え、力を継承しなければならない。
だがそれは嘘だった。欺瞞だったのだ。
平和を演出するための、人間が一時的にも結束するための嘘だったのだ。
アーサー1世アーノルドは自分の力で平和を成すことを放棄して、次代にその責任をなすりつけた。
異世界の観測、異世界の真似事、作られた平和、勇者の存在意義。
アーサーはここ最近ずっと苦悩している。
「………アーサー王よ。私は現実から逃げませぬ。」
不意にダンテが王に話しかける。それはダンテの強い意志の表れでもあった。
「…何?」
「自害などと軽々しく発言したこと、お赦し頂きたい。だが此度の作戦で私が犯した失敗は決して見逃せるものではない。
であれば…一時私は…このログレスから去り、己を磨き、精進して戻って参りたい。」
静聴していた他の家臣もざわめき出す。
「皆静粛に。」
アーサーの一声で玉座の間は再び静寂を取り戻した。
ダンテの目に曇りはない。覚悟は決まっているようだ。
「魔王が倒れ、平和が戻った。これから先大きな戦いは起きない、はずだ。」
家臣達がまたざわめき出した。
無理もない。今回の魔王討伐でシモーヌ、ギルバートを失い、更に戦力の要であるダンテを一時的にも国外へ出してしまうのだ。
ログレスにとってダンテの不在はそれだけで士気に関わる。
そしてそれが他国に知れ渡れば、好機とばかりに攻め込まれる危険もあるのだ。
「ログレスには私がいる。」
「………」
「ダンテ将軍、魔王亡き後の平和な世界。これは偽りではない。それを証明してみせよう。」
「アーサー王…」
「行くがいい。そして必ず戻るのだ。ログレスに、いやこれからの世代を担うにふさわしい力を身につけ、必ず戻るのだ‼︎」