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勇者たちの鎮魂歌  作者: 砂場遊美
第3章魔王討伐編(過去)
152/209

呪いの連鎖5

重苦しい沈黙が張り詰める。

誰も一言も発さない。景色も暗闇に戻っていた。ダンテはまっすぐにアーサーを見ているようだ。

長い沈黙の後話し始めたのはアーサーだった。


「魔王、今のお前の話が真実だとすれば…お前は私に倒されても…また復活するのだな?」


2人はアーサーを見る。アーサーは今までに見たことがないほど動揺しているかに思われたが、さほど動揺している様子ではない。

ダンテにまとわりつく影がダンテから離れた。ダンテがその場に倒れる。

アーサーは急いでダンテに駆け寄った。


「ダンテ将軍!」


身体を揺らし生死を確認する。どうやら気を失っているだけのようだ。暗闇の中で影になった魔王は視認できない。3人は身構えた。話がしたいだけと言っていたが、魔王は明らかに勇者に対して憎しみを抱いている。

自分の空間に勇者を閉じ込めた今の状況は、憎き勇者への復讐を果たせる絶好の機会なのだ。何が起こるかわからない。

だが次に3人が見たものは想像と全く違った。


景色が再び変わる。そこは城の玉座だった。

だが先ほどの玉座とは様子が違う。玉座は廃墟同然の荒れ様だったのだ。そしてその玉座に何者かが座していた。だが3人共、その姿に驚いた。それは座している、という表現が適切かわからない。

なぜなら玉座にいたのは醜く、腐臭を漂わせる肉塊だったからだ。肉塊は人の形を保とうとしているが、ひどく不安定だ。

腐り方が尋常ではなく、溶けかかった肉からは膿が時折吹き出している。

すると肉塊から声が聞こえた。


「どうだ…これが今の私の本当の姿だ。」


肉塊は魔王だった。


「おいおいマジかよ!」


竜人が驚愕の声を上げる。

肉塊はドロドロと表面が溶け出し、今にも崩れそうだったが、何とか人の形を保ち玉座にへばりついているようだった。


「そうとも。長きにわたって転生を繰り返した結果だ。お前達勇者の、人間の平和のために、望まぬ生を何度も何度も与えられた。

転生は繰り返すたび、肉体と魂が劣化する。この身体は転生の末路だ。影を思念体として飛ばすこと以外、もう何もできぬのだ。」


誰も何も言えない。


「気が狂いそうだった。気がつけばまた魔王として蘇り、勇者に倒される。死後の安息すら望めず、また蘇り殺される。お前達の憎悪の対象として、世界を脅かす魔王としてあり続けなければならない。途方もない苦しみだ。蘇る度このように腐り、溶ける。それでもお前達は偽りの平和のため私を殺し、また蘇らせる。」


肉塊となった魔王はなおも続ける。


「だがな…もう転生すら難しくなってきた。肉体にも、魂にも限界が来ている。こんな姿はもう魔王としての面影を欠片も残していない。

アーサー17世ヨハンよ。私の望みを聞いて欲しい。私に安息を与えてくれ。難しいことではない。今の私に戦う力はない。その聖剣で私を斬るのだ。一振りで終わる。そしてそれを、本当の平和への第一歩としてくれ。」


アーサーはゆっくりと鞘からエクスカリバーを引き抜く。目の前の肉塊は弱々しい。本当に一振りで終わるだろう。


「さあ、ここから平和が始まる。アーサー17世ヨハン、私亡き後の世界をお前に託す。」


アーサーは剣を振り下ろした。

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