かつての肖像3
「久方ぶりだなアンセムよ…見ない間に少しやつれたか…」
「そんなことはどうでもいいんだ、頼みがある、緊急の用事だ」
アンセムがやってきたのは魔王討伐の際に何度か世話になった腕利きの魔術師の工房だった。
昼間だというのに部屋のカーテンは全て閉め切っており、灯りもロウソクがテーブルの上に置いてあるだけだ。
埃っぽくじめじめした部屋の中には魔法の研究に使うと思しき本が山積みにされている。
齢は200を超えるであろう魔術師は全身しわくちゃで体も衰えているのか、手は常に震えていた。
時折激しく咳き込んだり、ぼさぼさに伸びきった真っ白な髭をいじっては、開いているか閉じているかわからない目をアンセムに向ける。
「お前1人とは珍しい…あの2人はどうした…あのうるさい小娘と、ほとんど口を開かない武闘家だったか」
「あの2人は死んだよ」
アンセムが言うと魔術師は一瞬髭を触る手を止めた。しかし、すぐにまた髭を触り始め、体を揺らしながら、
「くっくっくっ…そうか死んだか…それは気の毒に…くくく、ぶふふ」
言葉とは裏腹に魔術師は小刻みに震えている。
笑いを堪えているのだ。
以前から孤独感から屈折した性格になった老人だと思っていたのだがそれは勘違いだった。こういった状況で本性が垣間見えたと言ってもいい。
アンセムは不快感を抑え魔術師に詰め寄った。
「そうだ、あの2人はまぎれもなく死んだ。」
「お前の白魔法では役不足だったのか」
図星を突かれしばらくアンセムは沈黙した。
「死んだ者は二度と戻らない…
あの魔王討伐では一部の英雄たちがその武名を広げることに成功したが…その裏で数多くのもの達が散っていった…お前の仲間のようにな…」
魔術師はいつになく饒舌だった。
そしていつもは開いているか閉じているかもわからない目に不気味な光が宿っていた。
「今日は機嫌がいいな。俺の言いたいことがわかっているんじゃないか?
単刀直入に言おう。俺を死霊使い(ネクロマンサー)にしてくれ」
「ひひっ、ひひひひひ‼︎」
魔術師が笑う。初めてみる魔術師の笑い。心から笑っているのだろう。
「まさかお前、死霊使い(ネクロマンサー)になってあの2人を生き返らせたいと、そう思っているのだな」
「ああ。」
アンセムは即答した。
その目には決意が宿っているのが魔術師にも見て取れた。
「名家の白魔導士が死霊使い(ネクロマンサー)になるか…
見ものだな…いいだろう、その願い叶えてやる」