呪いの連鎖2
「疑念だと…?それは何に対する疑念だ…?」
アーサーが尋ねる。魔王が取り憑いたダンテは微動だにせずただ言葉を発した。
「もちろん、あなたに対する疑念だよ。それより、ここからは少し長くなる。疑問もあるだろうが、なにぶんここからは少し口を出さず聞いて欲しい。」
3人とも固唾を飲む。一呼吸置いた後魔王ーいや正確にはダンテなのだがーは口を開いた。
「見ての通り、ここがこの世界の始まりの姿だ。君たちの祖先が生まれ始めた頃の遥か古代の世界、そう言ってもいい。
この世界には一つだけ面白い特徴があった。異世界を観測することができたのさ。もっとも、今はもうできないがね。」
異世界を観測する。この言葉がよくわからないのか、3人とも呆気に取られている。
「夜空に浮かんでいるのはこの世界以外に存在する無数の異世界だ。見たこともない建物、人々、文化…他の異世界はそれぞれ独特の特徴を持っていたのさ。」
波の音が聞こえる。静かに3人は話に聞き入る。
「だけど、この世界には何もなかった。こうやって空に浮かぶ異世界を見ること以外何もできないつまらない世界だった。だから君たちの祖先は空に浮かぶ無数の異世界、その異世界を真似しようと試みた。」
夜の海辺に見たことのない装束を来た人が現れた。恐らくイメージをしやすくするためのものだろう。本物ではない。
「他の世界はどういう文化があるのか、何が特徴的なのか。君たちの祖先は必死に異世界を見て、記録を取り始めた。
そしてあることに気がついた。それはとても画期的で、すぐにこの世界にも取り入れようということになった。」
それは何なのか?と聞いて欲しそうな声色が、虚ろな表情のダンテとあいまってちぐはぐな印象を見せる。
「英雄、英傑と呼ばれる者たちが異世界にはいたのさ。人間が一人でできることには限界がある。そもそも共同体を作り、生活するのが人本来の姿だ。だがこの英雄と呼ばれる人間は数多くの逸話が示すように、たった一人で半ば伝説にまで昇華されるような人物ばかりさ。」
空気が変わる。
「龍殺しの英雄、古代ブリテンの王、救国の聖女、天下布武を掲げた武将。何と素晴らしい響きだ。人間には無限の可能性がある。この世界もそれに倣い、英雄、勇者と呼ばれる人間を作ろう。そうして人の持つ可能性を切り開こうと、そう思ったのさ。」
風がざわざわと吹く。先ほどまで見えた人の姿はもう見えない。
「だがどうすればいい?この世界には龍も、聖剣もない。文明も宗教もない。ならば作ってしまえばいい。原初の世界は可能性に満ちている。ここで何もしなければ、無の世界のままだ。君たちの祖先はありとあらゆる異世界のモノを作り舞台を整えた。」




