呪いの連鎖
ーまずは、そうだな。この場所こそが始まりの場所。原初の世界、だとでも言っておこう。ー
「…どういうことだ…?」
魔王の話は突然始まった。だが先ほどから理解できぬままに事が進んでおり、3人とも話についてこれないようだった。
アドルフに至っては辺りをキョロキョロと見回している。
ーこの海辺はこの世界ができた直後、今からだと数千年前のこの世界のどこかの海辺さ。人の手が加えられていない自然の極致。そこのジークフリートは気づいているかもしれないが…城や街、開けた道さえまだない。ー
「むっ、そうであったのか。」
アドルフはただこの風景が本物かどうか気になっていただけのようだ。アドルフの反応などおかまいなしに魔王は続ける。
ー空を見てみるといい。君たちは夜空に輝いてるのは無数の星々だと思っているだろう。ー
「なっ、何だよこれ…」
竜人が息を呑む。信じられないといった顔つきだ。
ーそこの亜人種は実にいい反応をしてくれる。そうさ。これはー
「星ではなく…建物…いや文明…この空には文明が映し出されているのか…?」
空に浮かんでいるのは星々ではなかった。星のように輝きを放つ建物。城や街、そしてアーサー達が見たこともないような形の建物や文明、それが星のように無数に空に浮かんで映し出されていた。
「これが何だというのだ⁉︎まさかこれを見て綺麗だ、とでも賞賛すればいいのか⁉︎下らない茶番に付き合っている暇はない!」
アーサーが語気を荒げる。
ーこれは前置きさ。だがこれを見せないことには話は始まらなくてね。そうだ、ここから先もテレパシーというのは何かと無粋だ。こうしよう。ー
何もない空間が歪み、そこから人が現れた。
「ダンテ将軍…」
ダンテは虚ろな目つきでアーサー達の方を向いていた。意識はないようだ。先ほどの暗闇での時といい、ダンテは魔王と接触していたと思われる。それもコキュートスへ発つ前に。
アーサーはそれゆえ、ダンテの様子が違ったのだと今になって気付いた。そして気付いてやれなかったことを後悔した。
ーダンテ将軍には今からする話を前もって話したのさ。いやあ実に面白かったよ。最初は全く信じない様子だったが、話が進むほどのめり込んでしまってね。語り手としてこれほど光栄なことはない。ー
「そうか…だから飛空挺での様子がおかしかったのか…」
ー亜人種よ、勘がいいな。おっと、テレパシーでは無粋だと言ったのは私だったな。ー
ダンテの背後に黒い影がまとわりつく。ゆっくりと目を開けたダンテは魔王の声で話し始めた。
「心配しなくてもいい。私は話がしたいだけさ。ダンテ将軍もこの話が終われば君たちに返すよ。もっとも、彼の内心は今疑念に満ち満ちているだろうがね。」