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勇者たちの鎮魂歌  作者: 砂場遊美
第3章魔王討伐編(過去)
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絶対零度の戦い5

「くそっ!きりがない!」


矢を放ち、敵の一団を殲滅しても敵はまだまだ湧いて出てきた。もう何分このまま戦っているかわからない。

シモーヌの肉体も限界が近い。


「皆様、耐えてくだされ!この老いぼれも死力を尽くす所存!ふん‼︎」


ギルバートの魔法も徐々に持続時間が短くなっている。

他の2人、アドルフのパーティに至っては姿も見えない。

身体を覆っているアヴァロンの加護ももう終わりが近づいている。先ほどまで開けていた視界が猛吹雪に変わりつつあるのだ。猛吹雪のせいで身体もうまく動かない。


そんな絶望的な状況下で敵は絶えることなく湧き出てくる。

シモーヌの矢一発で20匹ほど倒してもまだ終わりが見えない。ギルバートの魔法で時間の流れを遅くするのももう無理が生じていた。


「ギルバート踏ん張れ!男の意地をここで見せずに果てる気か!」


もう弓を構える力すら入らなくなってきている。歯を食いしばりシモーヌは弓を構える。

視界も吹雪に閉ざされほとんど見えない。心眼だけで敵を捉えるのも難しい。


「げほっ、げほっ、ぐうっ!」


ギルバートは吐血した。魔力以上の魔法を連続で使い続けているのだ。肉体に負担がかかりすぎている。


だが王の、アーサーの到着まで死ぬことはできない。魔王の本拠地、その位置を特定し、後は突き進むだけなのだ。それを目前に簡単に果てることなどアーサーの家臣に許されていない。

ギルバートを支えているのは、アーサーの存在と、アーサーの家臣であるというプライド、そして魔術師の意地だった。


「シモーヌ殿!逃げてくだされ‼︎」


「ッッ…!」


猛吹雪で視界も音も遮られる中、オーガグリズリーの容赦ない一撃がシモーヌに叩き込まれる。弓矢に全魔力を集中する特性上、肉体は無防備。敵の一撃はあっさりとシモーヌの右手を吹き飛ばした。

余波でシモーヌ自体も宙を舞い、雪原に倒れこむ。


「かっ…うっ…くそ…」


身体の感覚が吹雪で鈍っているのが幸いし、ある程度平静でいられる。這ってでも生き延びねばならない。アーサーは今すぐにでも到着する。その思いだけがシモーヌの頼りだった。


右手があった箇所を一瞥し、シモーヌはまた前を向き進む。ゆっくりと、確実に。


「王が…もうじき到着するのだ…負けて、いられるか…」


だがそんな彼女の精神は一瞬で崩された。ゴースト系の魔物スノウレイスが彼女に憑依し、彼女の内側から精神攻撃をしたのだ。

気力だけで動いていたようなシモーヌは、糸の切れた人形のように倒れた。


「がはっ…シモーヌ殿…!」


ギルバートは自分を覆う魔法を全て解除し、シモーヌに憑依するスノウレイスに攻撃をした。もともと攻撃は専門ではないが、敵一体ならばどうにかなる。


ドクン、とギルバートの心臓が激しく波打つ。呼応するかのようにギルバートは一層激しく吐血する。


「私はもう長くない…。だがシモーヌ殿、あなたは、あなたはまだ生きて…ログレスをアーサー王を…お守りしなければ…」


身体に力が入らない。視界も吹雪のせいで見えない。ギルバートもシモーヌも共に、死力を尽くし戦った。彼らは信じている。アーサーの到着と魔王を倒した王の姿を。

そして、勝利の祝福に溢れる母国と民の笑顔を。

ただ一つ心残りだったのは、それを見れなかったこと。弓兵と魔術師は最期までログレスの戦士であり続けた。吹雪の中で2人の戦士は力尽きた。

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