絶対零度の戦い2
一人、飛空艇から降り立ったアーサーは周囲の寂しさに拍子抜けした。敵はあらかた片づけられているだけでなく、死体すら見当たらない状況だったからだ。アヴァロンを展開し、前方で戦う5名と合流したころには、コキュートスは閑散としていた。
「皆遅れてすまない。どうやら敵は全滅したようだな。」
「いえ、王たる御身の道を確保することが我が責務でありますゆえ。何よりアヴァロンによって助けて頂いている身、誰も王を責めることなどありますまい。」
ダンテはアーサーの前に跪く。まさしく王の配下たる騎士の振る舞い。シモーヌやギルバートも彼に倣いアーサーに跪いた。ハルトマンとギーゼラはそれを訝しげな目で見ている。
空では相変わらず、竜人とアドルフの戦いの音が聞こえる。
「大義であったぞ。さてあとは魔王の居城を見つけ出し進入しなければな。」
「王よ、ご心配には及びませぬ。既にシモーヌ、ギルバートの両名が位置を割り出しております。勇者機関の透視通りの位置にあるようです。」
「まことであるか。ではこれより進軍を開始しよう。」
アーサーの指示に従い一行はコキュートスを進んでいく。アーサーの配下がほとんどを占める中、ギーゼラとハルトマンは肩身が狭い。少し遅れてアーサーに続いた。
「やれやれ、上空の彼らを呼び戻すかね?これではほとんどアーサーと愉快な仲間たちだぞ。」
ハルトマンのつまらない茶々がギーゼラの機嫌をさらに損ねる。同じパーティにも関わらず犬猿の仲だ。
「では早く呼び戻して下さる?殺風景でつまらないうえに、居心地も悪いのではたまりませんわ。」
ややヒステリックな言動にハルトマンも苛立ちながらテレパシーを上空の2人に送る。さっさと前に進んだギーゼラに背後から恨みを含んだ視線を送るが、彼女は気付いていないようだった。
「しかし吹雪も魔物もなければただの山岳地帯ですな。おまけに遮蔽物もないときた。これなら魔王の城もすぐに見つかりますぞ。」
「ギルバート、気を抜くな。魔物の群れもあれで全てではないだろう。幸い周辺に敵の気配はないが、あの影が出てきたらどうするのだ?」
シモーヌがギルバートに注意を促す。アーサーも彼らの実力を信頼しているのか微笑ましくやり取りを見ている。ダンテは相変わらず仏頂面でアーサーの後に続く。
「……空が急に暗くなった?」
それは突然のことだった。もともと吹雪で天候はよくないが、辺りが夜のように暗くなり始めた。
空気が張り詰める。パーティはそれぞれが臨戦態勢を取り、注意を辺りに向ける。
その間にも闇は深くなり、やがて周囲が全て真っ暗になった。完全な闇が訪れた。
「これはこれは、敵の幻術ですかな?」
「馬鹿な、ありえませんわ。私たちは何の術にもかかっていない…。」
「くくく、どうやら先ほどの群れは我々をおびき出す罠のようだったな。」
「落ち着け。注意を辺りに向け、全員で全員の背後をカバーしあうのだ。」
アーサーの判断で全員が円形の陣を組み、各々が外側を向くような位置で構える。音もない、敵の気配もない。ただの闇。だが闇に対する本能的な恐怖はぬぐえない。