絶対零度の戦い
コキュートスでの戦いの様子をダンテはしばらく黙って見ていた。これだけの魔物の大群の中で、完全に気配を断っている。アサシンのクラスをマスターした彼にとって、魔物の群れの中で気配を完全に断つことは朝飯前なのだ。彼はギーゼラの隕石を軽蔑するようなまなざしで見ていた。
「実に下賤な技だ。力さえあればいいと考える低俗な魔術師。所詮その程度だ。」
ダンテは右腕の紋様に魔力を流し込んでいく。同時に左腕からも魔力が放たれる。
「私は黒魔法などに興味はない。マスターこそしたが趣味の悪い手品など使う気にもなれんからな。……これからは存分に、私の流儀で、力を見せつけてやろう。」
ダンテの周囲に剣、槍、斧、ロッドなどの複数の武器が回転しながら顕在化していく。くるくると本人の周りをまわっている。そして地面からは強大な力を持つ炎の召喚獣、イフリートがその姿を見せていた。さらに本人の体を覆う強化魔法までもがかけられていく。これだけの芸当を同時に行うのは並みの者には不可能、20以上のクラスをマスターしたダンテだからこそ可能な技だ。そしてアサシンの気配遮断を解除し臨戦態勢に入る。
「見るがいい、魔王の配下どもよ。そして私と相対してしまった悲運を呪いたまえ。」
咆哮と共にイフリートが完全にその姿を現す。その威厳たるや魔物たちが怯むほどだ。威圧感を放ちながらイフリートは主たるダンテに命令を乞う。
『我が主よ。今度はいかように?』
「魔物を悉く焼き払え。ただし飛空艇の周辺と我々を除いて、あくまで優雅にだ。」
『承知いたしました。』
「それと私の戦いの邪魔立ても禁ずる。私の標的は私が仕留める。よいな?」
『仰せのままに。』
イフリートには猛吹雪もまるで意味を成さない。オレンジの逆立った髪が炎のごとく揺らめいて、漆黒の肌は筋骨隆々で彫刻のようだ。人と獣の中間のような顔立ちは常に憤怒の表情を見せる。圧倒的な魔力の塊、召喚獣がそこにあった。
「さてアーサー王との合流まで、私も馴らしておきましょう。」
空中で展開する槍を手に取る。前方から突進するオーガグリズリーの巨体を難なくかわし、構えていた槍を一突き、急所に打ち込む。湖のように蒼いその槍は敵の心臓部を貫き、槍の先端はグリズリーの血で紅く染められた。槍を引き抜き、引き抜いたままの動きで槍の後方部分を背後から襲い来るもう一体のグリズリーの顔面に直撃させる。一瞬たじろいだ隙を逃さず、素早く槍を敵の喉笛に突き立てた。
「退屈です、実に退屈です。魔王の配下とはいえ、所詮この程度なのですね。」