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勇者たちの鎮魂歌  作者: 砂場遊美
第3章魔王討伐編(過去)
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コキュートスへの進軍5

合図と同時に魔法陣が展開されアーサーを除く5名がコキュートスへと降り立つ。地上で待ちかまえるのは夥しい数の魔物たちだった。だがそれ以上に猛吹雪が視界を塞ぐ。アヴァロンの加護がまだ残っているとはいえ、この吹雪の中での長時間の戦いは危険だと皆が感じていた。加護がなければ即座に氷漬け。魔物に蹂躙される前に吹雪で一網打尽だ。


だがアヴァロンというのは素晴らしいもので、この猛吹雪の中に身を置いているにも関わらず、体が吹雪の中にいるとは感じさせない代物だった。おまけにアヴァロンの効果で徐々に視界も晴れていく。しかし安心はできない。


「オーガグリズリーにクリスタルゴーレム、スノウレイス、おまけにツインヘッドドラゴンと来たか。どいつもこいつも重量級ばかりだな。」


シモーヌが一瞬で敵を判別する。突然群れの中に敵が現れ魔物たちも動揺していると見える。これだけなら奇襲に成功している部類だが、事態はそれだけでは収まらない。相手が人間ならまだしも魔物、それも魔王の魔力を浴び、通常以上に強化された重量級の怪物の大群である。一帯を埋め尽くすほどの群れの中の、僅かな数の異物などあっという間になぎ払えてしまうのだ。

だが彼らは歴戦の勇者達。これしきの状況でなど怯むはずもない。


―シモーヌ殿!ここから2時の方向に飛空艇の気配あり!あなたは優先して飛空艇周辺の魔物を薙ぎ払ってくだされ!―


ギルバートのテレパシーが届く。だがテレパシーとほぼ同時にシモーヌは背中から弓を取り出し、2時の方向に構え始めていた。魔物も動揺が収まり、唸り声と共に異物を排除しようとざわめき始める。


「私の時空魔法は空間そのもに働き掛ける。見よ、老練なる魔術の真髄を!」


ギルバートは転送と同時期に準備していた時空魔法を展開した。一定の範囲内の時間の動きを加速させる魔法。襲い来る魔物の動きがスローモーションに切り替わる。実際は自分たちが倍速に近い動作をしているのだが。


「ふん、そんなこと百も承知だ!私とて誇り高き弓兵、狙いは外さん!」


シモーヌは弓を構えるが、そこには矢はなかった。だが構えた弓にしだいに光が矢の形を成していく。矢の形をした光はその存在感を大きくしていき、それに合わせ空気中の魔力の濃度も増していく。


「……命中位置、特定。……軌道確認。……誤差修正。……全対象補足…!」


弓が高密度の魔力を帯び、空気が振動する。彼女の心眼が、曇りなく対象を捉えた。


「穿てええええええっ!!」


大気を震わす振動と共に魔力の矢が放たれる。その軌道は正確無比で、光速とも言える速さで目標へと飛んでいった。矢は一本、対象となる魔物はほぼ無数。だが矢は敵の上空で突然その数を増やし、魔物の急所に全て命中した。一撃必殺にふさわしく魔物たちは倒れていく。


「飛空艇周辺の安全は確保できたな。引き続き王との合流に備え、敵を殲滅する!」


「あれが他国にまで恐れられた神弓の使い手の実力か。絶対的ともいえる命中精度…くくく、興味深いものだ。だがなあ、私とてパラケルススの直系。負けてはおれんな。」


ハルトマンは周囲に複数の魔法陣を展開する。魔法陣は妖しく輝き、それに合わせるようにシモーヌの矢に倒れた魔物たちが魔法陣に吸い込まれていった。やがて魔法陣はさらに激しく輝きを増し、その中から歪な物体が次々現れた。


「くくく、死体はホムンクルスにはできない。だが、あらかじめストックしておいたホムンクルスに、死んだ魔物を加工した武具を装備させた。ゆけホムンクルスよ。素晴らしいデータを見せておくれ。」


彼の言うホムンクルスの兵は皆一様に、真っ白で、顔のない人形のようだった。それが錬金術によって生み出された特殊な武具を装備し、主の命に従って敵へと突撃していく。

その数は膨大で戦場はますます混沌としていくようだ。


「相変わらず趣味の悪い戦い方ですこと。もしかしてこの討伐戦で死にかけた人たちを捕えて兵にしたのではなくて?」


ギーゼラがいつもの調子でハルトマンに食ってかかる。だが彼は魔物を加工した装備品を一つ彼女に投げて渡した。ギーゼラはそれをキャッチしたが、女性にものを投げて渡す態度にいささか不服のようだった。どうやら彼は、実験に茶々を入れられたくはないようだ。


「クリスタルゴーレムを加工した文字通りクリスタルの腕輪だ。魔力が湧いてくるだろう?それでもって敵を焼き払うといい。」


「あら、あなたにしてはいいセンスしてるのね。」


ふっとギーゼラが右手をかざすと空からさながら隕石のような巨大火球が落ちてくる。


「なんだあの隕石は!?」


シモーヌが思わず空を見上げる。隕石は轟音を立てて地上に落下し、下にいた魔物たちはジュッと音を立てて蒸発した。隕石の余波とも呼べる熱風が自分たちにも襲いかかる。


「ああ……一瞬でこれだけ葬れるなんて…快感…」


うっとりとした表情のギーゼラだが、ハルトマンのホムンクルスも何体か巻き添えを食らった様子だった。


「………人の恩をあだで返すとは、とんだ性悪だな。ホムンクルスだけでなく我々も巻き込まれるところだったぞ。」


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