コキュートスへの進軍3
咆哮が衝撃波となって竜人に襲いかかる。さらに右方向からは敵兵器の砲弾。竜人は素早く後方へ飛びのき、砲弾に火球を複数浴びせた。魔力を帯びていない純粋な高威力の火球は、砲弾の向きをアドルフへと変えるのに十分な役割を果たした。
砲弾はアドルフへと飛んでいき爆発した。
爆煙が辺りを包む。
「この程度じゃ時間稼ぎにしかならねえ。」
ふと、竜人が飛空艇へと視線を移すと、なんと飛空艇が着陸準備を進めているではないか。敵兵器が3機も残っているこの状況で着陸すると言うのだろうか。
さらにテレパシーが入る。
―君たちには悪いが我々は一足早く着陸する。心配はいらない。戦いは続けてもらって結構、ただ兵器の注目だけは引いておいてくれたまえ。それ以外は任せるよ。では―
「へっ、聞いたか戦闘狂!!」
竜人がバルムンクの攻撃をいなしながら言う。アドルフもハルトマンのテレパシーを聞いていたらしく、飛空艇を一瞥すると、また竜人へと視線を戻した。
「もちろん聞いていたとも!!これで存分に戦いに興じることができよう。」
「へへへ、実はな戦闘狂」
もったいぶって竜人が話す。
「なんだ、言ってみろ」
「俺も戦いは大好きなんだよ。」
直後、竜人の体から炎が噴き出した。全身に鎧のように炎を纏い、アドルフを睨みつける。
飛空艇を守るという責任から解放され、竜人もまた本来の戦いに没頭できる。そう考えていたのだ。
「ほほう、やはり本物のドラゴンは違うなあ。まさか炎を纏うとはな。」
「お前のその不死身の肉体と俺の炎、どちらが本物か試してみようぜ!!」
空中で2人の戦闘狂が激突する。彼らにとって兵器はもう戦いの余興にすぎない。邪魔をすれば破壊し、そうでなければ眼中にない。
飛空艇内―
「飛空艇、着陸態勢に入りました。」
ダンテがアーサーに言う。いよいよコキュートスへと着陸し、魔王の待つ居城へと向かう。本当の戦いは目前に迫っている。
「シモーヌ殿、地上の様子がわかるか?」
ギルバートがシモーヌに問いかける。
「………見えた。驚いたな、出迎えにしては多すぎる。」
彼女の弓兵ならではの眼は非常に優秀だ。ギルバートのそれは優れた透視魔法の類だが、彼女のそれは敵の気配を読みとる。離れた場所の敵を一撃のもとに葬り去る神弓の使い手のみが持つ心眼、彼女の心眼が地上の敵を捉えた。
「馬鹿正直に着陸したら袋叩きだ。飛空艇ごとな。」
「私はこんなところであなた方と心中する気はさらさらございませんが。」
ギーゼラが爪を磨きながら言う。
「ははは、心配するな魔術師殿。」
今までアヴァロンを使い、沈黙を貫き通したアーサーが口を開いた。
余裕のある顔で辺りを見回すと決意のある面持ちで話した。
「私に提案がある。」