かつての肖像2
「俺は世のために力を尽くした!それに比べてこの家は何をしていた⁉︎
家の存続を第一に考え、戦いにお抱えの白魔導士を一切派遣しなかった奴が!
偉そうなことを言うな‼︎」
アンセムの当主に対する怒りは留まることがなかった。
「やめなよ兄さん、見苦しい」
その時、部屋にアンセムの弟、次期当主候補のクリントが入ってきた。
クリントは一族に伝わる白魔導士伝統のローブを纏い、魔道書を抱えていた。
「クリント…お前…」
「そうだよ、僕がこのメディチ家の5代目当主さ。」
淡々とクリントは語る。
「兄さん、父さんの言うとおりだ。今まで家のことを全然考えていなかったのに、今更戻ってきて秘伝だけ授けろだって⁉︎当主としてこの家を継ぐつもりもないくせに」
アンセムは目を伏せて、黙ってクリントの言うことを聞いていた。
「この5年間は大変だったよ、兄さんは知らないだろうけどね。
家の存続しか考えてないって言うけどさ、それすら考えられなかった兄さんが言える筋合いはないよ。
白魔法の研究、勉強だけじゃない。家の影響力を示すために地元の他の名家との繋がり、白魔法の伝授、当主として下の者をどう率いていくか…
毎日毎日、辛いことばかりだったけど、苦労した甲斐もあって当主としての意識も出てきたよ。」
「だったら、他の者を助けようとは思わないのか?今の平和な世界のために、俺の仲間だけじゃないが、犠牲になったもの達が数多くいる。」
「やめろよアンセム、いい加減にしてくれ。好き勝手喋ってるのを聞いてるだけで虫酸が走る。
それに没落する一方だって言うが、最近持ち直してきているんだ。
わかるかアンセム、最近の家の動向すら知らないのにお前の青臭いことを聞いてる暇はない。」
「クリント、待っ」
「もうこの家には関わらないで欲しい、出てってくれ」
重たい沈黙が部屋に張り詰める。
アンセムは呆然と立ち尽くし、少しした後、無言で家を出た。
外は晴天だった。
あんなにも待ち望んでいた青空が今では憎らしく思えてきた。
「あいつらは何もわかっていない…!」
アンセムは振り返ることなく家を後にした。