コキュートスへの進軍2
飛空艇内では外の戦いの様子がギルバートやハルトマンを通して大まかに伝えられていた。外での戦いが始まって20分ほどだろうか。いまだ敵兵器が全て撃破される気配はなかった。
アーサーのアヴァロンも維持に魔力を使う。本来ならばここではなく、コキュートスを行軍する際に温存する予定だったものだ。加えて、魔王を倒さなければ首都にも魔物の大群が押し寄せ、遅かれ早かれ陥落は免れない。
それだけにあの2人が果たす役割は非常に重要なはずだった。
だからこそ、ギルバートの発した一言は飛空艇内の者たちにはにわかに信じ難いものだった。
「なんということだ…竜人とジークフリート殿が戦いを始めおった。それも、敵兵器もまだ3機残っておる…」
「なんだと!?」
シモーヌは怒りとも驚きとも取れる様子を見せた。無理もない。彼らにしか任せられない、彼らの戦闘力を見込んで送りだしたのだ。形式的にはだが。
彼らの性格からしてあり得ないことではなかった。だがまさか、この状況下で、味方同士で戦いを始めてしまう神経があるとは思えなかったのだ。
ダンテは落胆したようにギーゼラに視線を向ける。
「ジークフリートは勇者ではないな。畜生や魔物と同じ、本能の赴くままにしか行動できない男だったか。どう責任を取るのだ?錬金術師に女魔術師。」
「責任?」
ハルトマンがダンテに敵意の視線を返す。ギーゼラも珍しくハルトマンに賛同しているようだ。
「何を言っているかわかりかねるな。ダンテ将軍。」
「あなたが半ば彼らを扇動し戦いに送り出した!この状況では理に叶っている上策だったよ、確かにな!だが今の状況はどうだ?我々の安全確保が二の次になっている。これでは本末転倒だ!」
ダンテが語気を荒げる。
「あら、あなたほどの人なら、アドルフ殿や竜人の性格もある程度考えていらしたんではなくて?まさか予想外の出来事だった、とでも言いたいんじゃないでしょうね?」
ギーゼラがダンテを煽る。
「貴様ら…」
「くくくく、落ち着きたまえ。敵兵器は先ほどより減っているのだぞ。それだけでも僥倖と言える。」
ハルトマンがニヤニヤと笑みを浮かべる。人の神経を逆撫でする、不快な笑顔だ。
「だが確かにこの状況はいいとは言えない。どうかね?いっそ覚悟を決めて、このままコキュートスへ着陸するというのは…」
飛空艇内に重い沈黙が張りつめる。
「なあに、私も無理を言っているわけではないのだ。考えてもみろ。敵兵器はあの2人につきっきりで我々は眼中にない。事実、先ほどからは流れ弾を避けているだけだ。」
「確かに、錬金術師の言うことは理に叶っておる。今着陸するのは悪い選択肢ではない。むしろ、機を逃しては状況はさらに悪くなる。」
ギルバートが言う。
「あの2人には今まで通り、空で戦いを続けてもらおう。その間に我々が魔王の居場所まで進軍すればいいのだ。」