死地3
「無駄です。その程度の魔法では私に傷一つつけられません。」
ダンテもまた無傷だった。ギーゼラは憎悪とも取れる視線をダンテに向けたまま更に彼に魔法をかけようとする。
「わからないお方だ。高速発動と言えど、魔術師程度が私にダメージを与えられるとでも?私の耐性を突破したいならその貧弱な魔法自体をどうにかするのですね。」
「くどくどと理屈くさい男ですこと。これはいかがかしら?」
ギーゼラが左手をダンテにかざすと、ダンテの体が一人でに動き出した。彼の意思とは関係なく。
「あら無様な姿ね。そのまま体をへし折ってやりたいところですけど、まずは私に跪いていただかないと。」
ダンテの腕や足がみるみるおかしな方向にねじ曲がる。骨の軋む音が聞こえる。
「その減らず口ももう聞きたくありません。さっさと舌を噛み切っていただきましょう。」
だが次の瞬間ダンテの体は元どおりに戻った。彼を中心として放射線状に聖なるオーラが広がる。
「実に不愉快です。その低俗な魔法も、貧弱な考えも。私を跪かせたいのなら、禁術の一つでも用意しておくのですね。」
「そこまでだ!2人とも‼︎」
2人の不毛な争いはアーサーのエクスカリバーとシモーヌの弓で止められた。
「ダンテ、お前もお前だ。何もそこまで挑発する必要はなかろう。」
エクスカリバーを前にダンテが動きを止める。勇者の証。絶対的な勇者の象徴。
「王よ、どうかエクスカリバーを戻していただきたい。」
「ならぬ!仲間同士で争うなど、敵の思う壺だ!」
その一言を聞きダンテは殺気を鎮めた。
「ギーゼラ殿、あなたもあなただ!少し落ち着かれよ!」
シモーヌが彼女を諌める。
ギーゼラは彼女に対して冷たい視線を浴びせ、放っていた魔力を元に戻した。
「くくく、流石は勇者殿だ。」
ハルトマンがまるで他人事のように言う。
「錬金術師よ、お前は人を焚きつけるのが上手いが、それをもう少しいい方向に利用しようとは思わんのか?」
アーサーが冷静にハルトマンを値踏みする。
「……いらぬ助言だ。興がそがれたよ。私はコキュートスに着くまで大人しくしていよう。」
ハルトマンは面白くなさそうに外に視線を移す。
「くくく、あの2人がどれだけ暴れるか、見物はそれだけだよ。」