死地2
「不死身の肉体…だと…?」
竜人の顔が強張る。目の前の男は確かにそう言った。不死身の肉体とー。
そんなものはあり得ない。竜人のアドルフを見る目は完全に仲間を見る顔ではなかった。
「おうさ!我輩の先祖、ジークフリート1世は異世界の英雄ジークフリートに憧れ、その逸話と同じ肉体を手に入れた。
まあ、ファブニールと呼ばれる竜を討伐した訳ではないのだがな。」
アドルフは豪快に笑う。
「てめえ、まさか…」
「そうとも‼︎貴様を前にして言うのもあれだが…我が一族は竜族を討伐し、その血を浴び、呑み、肉を喰らいその力を我が物にしたのだ‼︎」
竜人の表情は不死身の肉体への畏怖から同族を殺した人間への憎悪に変わっていた。
アドルフはからからと笑うばかりだ。
「わかったか竜人よ!我が肉体は長い年月をかけ、最早竜族と呼んでも遜色はないものへと昇華した。」
「てめえ…‼︎」
「まあ2人とも落ち着くのだ。」
一触即発の雰囲気に割って入ったのは、錬金術師ハルトマン。アドルフのパーティの一員である。
「大事なことを失念しているようだ。我々はこれからコキュートスへ侵入しなければならない。そのためにあの厄介な兵器を排除せねばならんのだろう?」
「何が言いたい?メガネ」
「くくくく、つまりだね…
アドルフ殿と竜人殿とで、あの兵器をどれだけ早く壊せるか競争したらいいじゃないか。」
ハルトマンの提案はこの2人の性格やこの状況をうまくついたものだった。戦闘狂とも呼べるアドルフと、アドルフに対して敵意を露わにする竜人。彼らを競わせるのはこの状況において理に叶っていた。
「ほう、流石は我が同胞よ。さてどうする竜人よ。まさか尻尾を巻いて逃げるか?撃墜までの時間もないぞ?」
アドルフが竜人を挑発する。
竜人の怒りは頂点を通り越しているに違いない。静かな中に隠しきれない凶暴性が垣間見えている。
「おもしれえ!自称不死身野郎に負けるはずがねえ!表へ出ろ‼︎まさか翼がないから戦えません、とは言わねえだろうな⁉︎」
「無論だ、我輩に翼などいらん‼︎」
「くくく、では行ってくるといい。敵は目の前だぞ。」
ハルトマンがそう言うと2人の足元に魔法陣が表れた。魔法陣は不気味に光ったかと思うと、2人の姿を消した。外へ彼らを転送したのだ。
2人がいなくなったあとの飛空挺は静かさを取り戻す。
「あの不死身のパフォーマンスはいかがなものかと思いますが。」
ダンテがギーゼラに話す。
「そもそも吹雪と爆発に対する耐性は違う。おまけにあの程度の爆発、不死身の肉体でなくとも防げます。せいぜいハッタリにしか使えないでしょう。」
その一言にギーゼラは怒りを露わにした。彼女は今度はダンテの顔を爆破した。
呪文詠唱なしによる高速の魔法発動。
その脅威がダンテを襲う。